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吉田沙保里と伊調馨がまたも日本一。
絶対王者が苦しむ、対照的な逆境。
posted2015/06/29 10:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
NIKKAN SPORTS
6月19日から21日にかけて、レスリングの全日本選抜選手権が代々木第二体育館で行なわれた。
その最終日を観戦した。例年通り、出場選手の所属先や親族など関係者が詰めかける中、女子の実力者である53kg級の吉田沙保里と58kg級の伊調馨はそろって優勝した。ただ、その内容は対照的だった。
吉田は階級の区分けおよび五輪実施種目の変更のため、昨年、長い間戦ってきた55kg級から53kg級に変えている。昨年に続いての優勝となったが、全3試合ともにどこか精彩を欠いた感があった。
決勝では序盤からペースをつかみ、得意とする片足タックルなどで5-0とリード。ところが終盤、反撃され5-3と食い下がられる意外な展開となる。残り30秒あたりでタックルに入るが、かわされ上に乗られる苦しい場面となったが、入江ななみの右足を離さずにしのぎ切っての勝利だった。
食事量の少なさと、若手の伸びが吉田の苦戦に。
苦しんだ理由は、体力面にあった。試合のあと、栄和人監督に、食事の量の少なさを指摘されたという。吉田自身、「生活の中でしっかりとした食事をとることができていない」とコメントしているが、もともと食事の面は吉田の課題だった。55kg級の時期も、本来は55kgよりも軽いため、栄養士のサポートなども得ながら体を大きくしてきた。食の細さやお菓子類に手を出しがちな傾向もあり、意識していなければ、吉田は体を維持することが難しい。その面でやや緩みがあったのかもしれない。
同時に、若い選手たちとの差が縮まっていることもうかがえた。
「若い選手が伸びてきているのは毎年感じています」
調整の不十分とともに、挑んでくる新しい世代の選手たちの存在。それが吉田の苦戦にもつながったのが今大会である。