松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
残り2ホール4打差でも勝利を信じる。
松山英樹の「小さな可能性」思考法。
posted2015/06/08 16:30
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
AFLO
「あと2時間もある。どうしよう。引き上げるわけにも行かないし……」
松山英樹はそう言って、深い溜め息をついた。
昨年、米ツアー初優勝を飾ったメモリアル・トーナメント。その舞台となるオハイオ州ダブリンのミュアフィールドビレッジに、今年はディフェンディングチャンピオンとしてやってきた。だが開幕を翌日に控えた水曜日の昼下がり、彼は練習グリーン脇のベンチに力なく座り込み、うつろな目をしてうなだれていた。
「調子悪すぎて、元気ないっすよ」
2週間のオフを経て臨もうとしていた同大会。「オフ」とはいえ、試合に出ていなかったというだけで、クラブを握らなかったわけではなかった。「練習はしていたんで、リフレッシュという感じではない」と。
連覇に向けて、しっかり準備をしてきたはずだった。
「こっちに来てから感覚がない。フェアウェイには打っているんだけど、フェアウェイからが……。練習はしていたんだけど、調子が悪すぎて練習した意味がない。楽しみと思っていたのに、大変なことになっている」
そう言いながら、松山は肩を落とした。
前年優勝者には、会見やイベントが目白押し。
米ツアーで連覇をかけて戦うことは、言うまでもなく松山にとって初めての経験。そして、前年の優勝者に最大最高の敬意を払うのは米ツアーならではの特徴だ。トーナメントウィークの数週間前にメディアデーが開かれ、前年優勝者は地元メディアに会見したり、大会関係者と親交を深めたりという行事に招かれる。
実際のトーナメントウィークにも、まだまだ行事は目白押し。とりわけ、帝王ジャック・ニクラスが大会ホストを務めるこの格式高いメモリアルでは、前年優勝者の名前が記念碑に刻まれ、写真が会場内のいたるところに飾られる。開幕前日の午後、開会式や各種アワードの授与式終了後に開かれるゴルフクリニックに参加するのも慣わしだ。
不調に喘ぐ松山は正直にいえば「どっかに隠れたい感じ」だった。しかし、そのクリニックを終えずして宿に引き上げるわけにはいかなかった。クリニックが始まるまで「あと2時間もあるよ……」。そう言って、松山は再び溜め息をついた。
だがその直後、松山は「溜め息ばっかり吐いているから、今のうちに吸っておこうと思って」と言いながらスースーと空気を吸い込み、笑って見せた。連覇が狙える立場にあるのは「僕しかいないんで。頑張ります」と言いながら、自身にもそう言い聞かせた。肝心なときに不調を感じながらも、彼は彼なりに前を向こうと必死だった。