ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
W杯優勝の水面下に隠された10年間の周到な準備。
~ヨアヒム・レーヴ、勝利の哲学~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byWataru Sato
posted2015/06/03 10:00
『パーフェクトマッチ ヨアヒム・レーヴ 勝利の哲学』クリストフ・バウゼンヴァイン著 木崎伸也/ユリア・マユンケ訳 二見書房 1600円+税
その準備の周到さは、驚くべき精度だった。2014年のブラジルW杯を勝利したドイツ代表。そのチームを長年率いるヨアヒム・レーヴに関する本で、あなたは試合結果という「見える部分」が、どれほどの「見えない部分」に支えられているのかを知るだろう。
ありそうでなかった初のレーヴ本『パーフェクトマッチ』。本書は「栄光なき選手時代」を経た彼がいかに指導者として覚醒していくのかを描く。そして、その始発点は意外にもスイスにあったのだ。
レーヴが現役時代の晩年に所属したスイス2部のシャッフハウゼン。そこのロルフ・フリンガー監督や、革新的サッカー理論をレーヴに教えこんだ現ドイツ代表スカウトの「名教官」ウルス・ジーゲンタラーなど、スイス式のシステムがレーヴ独自の戦術理論の基盤になっていることがまず明らかになる。