プロ野球亭日乗BACK NUMBER
グリエルの“計画的犯行”を許すな。
キューバ選手獲得で露呈した「穴」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/04/10 10:50
昨シーズン終了後に日本を去ったまま、グリエルが再来日することはなかった。横浜のフロント、チームメイト、そしてファンの気持ちはいかほどか。
騒動のはるか以前に、メジャーへの意志を表明していた。
これがざっとしたグリエル騒動の顛末だが、問題はこのずっと以前に、本人がメジャー入りを熱望し、具体的にヤンキースの名前まで出していたということではないだろうか。
このヤフーのサイトにアップされている映像を見ると、インタビューが行われたのはラティーノアメリカーノ球場の試合前で、国内リーグが行われている最中であるのは明白だ。となると、所属のインダストリアレスがプレーオフ準決勝進出を逃した3月19日以前の映像であることが確実なのだ。
すでにこのころからメジャー志向を表明して、ヤンキースを希望球団としてあげていたとなると、DeNAとの契約などまったく意味のないものだったということになってしまうわけである。
米国とキューバの国交正常化交渉の大きな影響。
実はここに、キューバ選手との契約の一番の問題点が潜んでいるように思う。
昨年、キューバ政府の契約解禁で、日本の球団へのキューバ人選手の移籍が次々と実現した。これらの契約は、それぞれの球団がこれまでに築いてきた独自のルートで、キューバ政府と個別交渉を行って獲得を決めたものだった。
例えばMLBとNPBの間では、選手契約に関する取り決めが明文化されていて、これに違反すればそれぞれのリーグから処分が下されることになる。韓国プロ野球や台湾のプロ野球ともこうした紳士協定が結ばれて、それを前提に契約は“保証”されているのだ。
ところがキューバの選手の場合には、キューバの野球連盟とNPBの間に、きちっとした契約の取り決めは存在しない。当然、グリエルのようなケースも、DeNAが球団としてキューバ政府や、野球を統括するスポーツ省などと問題協議をするしかなく、こちらが個別企業という点もあり、あまり実効性のある展開は期待できない。そもそも両国間に正式な約束事がないのだから、その土俵すら存在しないというのが実情なのかもしれないのである。
しかも昨年、米国とキューバの国交正常化交渉が突然スタートしたことにより、MLBの中でもキューバ選手への注目度は急激に高まっている。実際、2014年-15年のキューバ国内リーグや2月にプエルトリコで開催されたカリビアン・シリーズには、メジャースカウトが大挙して観戦に訪れ、「将来のメジャーリーガー」探しにやっきとなっていた。
その中で、グリエルなど評価の高い選手にMLBのスカウトが接触した可能性も否定はできない。現実問題として、騒動の早い段階から「ヤンキース入り」の情報が流れ、代理人等による“タンパリング”(事前交渉)の可能性も指摘されてきたのである。