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中日・大野のビッグマウスに異変?
芽生えはじめたエースの自覚と目標。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/02/25 12:00
目標とする投手は藤川球児という本格派左腕。ローテーションの一角として真価が問われる今シーズン、どういうピッチングを見せるのだろうか。
大野の口から、昨年のような強い言葉が消えた。
そんな男だから、昨年のキャンプ中に何度も聞こえてきた「開幕投手奪取宣言」は、頼もしくもあった。
開幕投手こそ川上憲伸に譲ったものの、昨シーズンの大野は、10勝8敗と貯金を作り、防御率は2.89をマーク。2年連続でBクラスに終わったチームの中でも十分誇れる成績を収めた。
ところが、エースの座に近づいた今、大野の口からは昨年のような勢いに乗った言葉が聞こえてこない。「目標は開幕投手」と口にすることはあるそうだが、立ち向かっていく大野の姿勢は鳴りを潜めている。心境の変化でもあったのだろうか。
「去年はキャンプから開幕投手を目指してガムシャラにやっていて、オープン戦に入ってからは特に結果を求めてやっていました。結果的に、開幕投手になることはできなかったんですけど、開幕投手を目指していったことには後悔はしていないんです。今年は、もちろん開幕を狙っていますし、ベストに持って行けるようにとは思っていますけど、今年は自分が言わずとも任せてもらえたらなと思っていますね。そこは去年とは違うかもしれません」
新たに芽生えた、先発ローテーションの責任感。
開幕投手は投手にとって栄誉だが、1年間活躍できなければ意味がない。2年連続で二桁勝利を挙げたことが、大野に確固たる自信と先発ローテーションの役目とは何かを植え付けたのかもしれない。
「開幕も大事だし、開幕だけじゃないって気持ちもあります。去年と一昨年は、開幕のローテーションに入っていたにもかかわらず、3、4月は勝てていませんでしたからね。開幕戦だけにこだわるんじゃなくて、任された試合で勝たないといけない。開幕ローテに入ったからには、年間を通して活躍しなければいけないと思っています。目標は、3年連続二桁勝利を挙げて、優勝に導くことです」
中日の先発投手陣には、コースを丁寧に突くタイプのピッチャーが多い。2度最多勝に輝いた吉見一起、昨季、最多勝の山井大介、今季で50歳のシーズンを迎える山本昌などは、まさにコーナーワークに優れたピッチャーだ。これには中日のスカウティングの一つに「指先にストレスの掛かるピッチャーは育成に時間が掛かる」という考え方があるという。
“指先にストレス”とは、コントロールが気になって腕が思い切り振れないという意味だが、中日のスカウト陣がスピードガンを持たずにスカウティングをしているのは、その見極めを大事にしているためである。