REVERSE ANGLEBACK NUMBER
エースか、シンデレラボーイか。
スーパーボウルで考える「運」の力。
posted2015/02/04 10:40
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
Getty Images
いろいろありすぎて、どこから書いていいのかわからないようなスーパーボウルだった。第3クォーターを終わった時点ではシーホークスがペイトリオッツを10点リードしていた。ただリードしていただけではなく、勢いも完全にシーホークスの側にあった。ペイトリオッツのQBトム・ブレイディのパスを2度インターセプトしてブレイディのイライラを募らせた。
攻撃時間を見ると、シーホークスはペイトリオッツよりだいぶ少なかった。数字上は一方的に攻められているように見える。しかし、これこそがシーホークスのペースだった。強力な守備陣を持つシーホークスは相手に攻撃時間は与えても、最後のところで得点を許さない。第1クォーターのインターセプトがその典型で自陣20ヤード内にまで入られて先制を許すかと思われたところでブレイディのパスをキャッチして形勢を逆転した。
第3クォーターまでの内容を見れば、シーホークスの連覇かと思われたが、ブレイディはみごとだった。
第4クォーター開始早々まずタッチダウンを1本返し、3点差に迫る。そして残り2分余りのところでタッチダウンパスを決めてついに逆転。守備陣も残り1ヤードまで攻め込まれたあと、相手パスをインターセプトして再逆転を許さず逃げ切った。
レギュラーシーズン全く活躍しなかった男が……。
4度目の制覇を果たし、スーパーボウルの通算パス記録も更新したブレイディがヒーローであることは間違いない。
だが、あと一歩のところでヒーローになりかけたシーホークスの選手がいたことも覚えておきたい。
クリス・マシューズはWRだが、レギュラーシーズンはわずか3試合に出場しただけで、WRとしての記録は無い。つまり、ひとつのタッチダウンどころか1本のパスキャッチもできなかったのだ。わずかな時間、囮のようにフィールドを走り回っただけだった。
そのマシューズの名前が一躍知れ渡ったのは、パッカーズとのカンファレンス決勝だった。追い詰められ、一か八かのチャンスを得ようとチームはオンサイドキックを選択する。これが相手にキャッチされれば試合はほぼ終わる。オンサイドキックの成功率は2割程度といわれ、大事な場面ともなれば相手の警戒は高まるからさらに成功の確率は低くなる。そのわずかなチャンスをものにしたのがそこまでほとんど活躍の場のなかったマシューズだった。