松山が感じた“あの頃の目”との違い。

　ところがその胸には、感動とか、興奮といった思いは湧き上がってこなかった。「なぜかは分からないけど……“あの頃の目”とは違う」

　小学生時代に感じた、後ずさりしそうな迫力とは感じられなかった。それは本格参戦2年目のシーズンを戦っているいまも同じだという。

　故障とスランプを経て、ウッズは何度も立ち上がってきた。メジャー優勝からは遠ざかっていても、その'13年シーズンの成績を見ても年間5勝と、数字の面での存在感は相変わらずだ。

　それでも、何かが違う。結果とは別次元の事実として認めざるを得ない、心のヒーローの「今」だった。

　'09年末には不倫スキャンダルに揺れたウッズ。世間の視線はガラリと変わったと言っていい。だが一連の報道を知っても、松山の中で長い年月をかけて神聖化されたイメージは崩れることはなかった。

「（イメージが変わるなんて）そんなの、あるわけがない。『でも、ゴルフ上手いじゃん』って。『一番強いから、それもできるんでしょう』って」

　当時の松山は、憧れを自己正当化するため、必死にエクスキューズを探す日々を送ったのかもしれない。

ウッズの真の復活を望んでいるのは、彼らかもしれない。

　松山は米ツアーへの本格参戦を決めてから、米国本土のあるレストランで1枚のポスターに目を奪われたという。画の中では全盛期のウッズが、グリーン上でパッティングのラインを読んでいた。隣にいたサポートチームのスタッフに思わずポツリと言った。

「僕が知ってるタイガーの目は、これですよ――」

　ウッズの低迷は、いまだにゴルフ界全体に打撃を与えている。全米のテレビ中継の視聴率は低調で、ゴルフという一スポーツの枠を超越する新たなスター誕生を期待する声が叫ばれて久しい。

「年が原因なら仕方がない。確かに年齢は大きいと思うけれど……」

　松山はそう伏し目がちに言った。受け入れがたい現実が迫っていることは知っている。けれど誰よりも深く、ウッズの真の復活を言いしれず望んでいるのは、あの頃のゴルフ少年たちに他ならない。

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