ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹がウッズの復活を望む理由。
12年前に見た“あの目”をもう一度。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2014/12/29 10:50
2002年、ダンロップフェニックスに出場した時のタイガー・ウッズ。2014年のワールドランキングでも、16位の松山英樹に対して、ウッズは32位に留まっている。
松山の記憶に鮮明に残る、ラフを転がったボール。
集中力をギリギリまで高めたウッズの鋭利な眼差しは、獲物を捕らえんとする虎の視線。
「ショットの前だから、動いちゃいけないんだけど、『後ろに下がりたい、ここから逃げたい』と思った」
スーパースターから放たれる痛いほどの迫力に、身震いがした。
当時の大会でウッズは8位に終わっているが、再来日した2年後の'04年大会では2位に8打差をつける圧勝で、日本ツアーの試合を初めて制覇した。そして松山はこの時も当地でそのプレーを堪能した。記憶はこちらも鮮明だ。
真紅のシャツをまとった最終日。13番ホールでグリーンサイドのラフからの静かなアプローチに、度肝を抜かれた。
「右手前のピンポジションで、グリーン右奥、バンカーの手前からのショットだった。ポンッと浮いたボールで『あ、短い。ミスだ』と思ったら、ラフの上をボールが転がっていって…“パン、パン、パン、スー”っと、ピタッと寄った。
覚えてる、球の軌道。ラフを普通、ボールが転がりますか? それが、転がったんだよね……小さかった僕には、意味が分からなかった。(寄せた技術の正体は)いまも分からないけど」
あの日、ウッズが住んでいた世界は異次元。まさに神業としか言いようがなかった。
「タイガーと回れたら夢みたい」
淡くもそう願った多くの仲間たちと松山英樹が違ったのは、その言葉を現実にしたところである。
初めて同組で回り「この人、どうしようもないな」。
月日は流れ、プロ1年目の夏。昨年8月のWGCブリヂストンインビテーショナルで、松山はウッズと第1、2ラウンドで同組になった。
早朝から熱気に満ちた初日、ドライビングレンジ後方の練習グリーンでウッズを見つけるなり、松山は歩み寄り握手を交わした。憧れの相手との握手は、これまで何度も手に残してきた感触とは違った。
「外国人の手って、こう、大きいじゃないですか。分厚いというか…。でもタイガーは大きいというよりは、引き締まっているというか…硬かった」
2日目には驚愕のプレーを目の当たりにした。7400ヤード、パー70のモンスターコースでウッズは1イーグル、7バーディの61をマーク。ラウンド後の松山は「途中までは『スゴいなあ』って思って見てたんですけど、なんか『この人、どうしようもないな』って思ってしまった。次元が違い過ぎて小学生がプロとやっているみたいだった」と、ただただ感嘆のため息ばかりを漏らしたものである。