「瀬戸際は、経験してみないとわからない」

「トップチームに上がってからは本当に甘い世界ではなく、プロの高い壁というのを味わってきました。公式戦1試合、スタメンで出るということだけでも難しいんだなと痛感しました」

　そして3年目の今季は、J2の福岡へとレンタル移籍。しかし野崎はここでも出場機会をほとんど掴むことはできなかった。福岡は期限付き移籍満了を選択し、レンタル元の古巣からも契約非更新を伝えられた。

「もちろん、たった3年でプロのキャリアを終わらせたくないと思っています」

　そう語る野崎。どうしても切羽詰まった状況を想像してしまうが、彼は明るい語り口で話を続けた。

「こういう瀬戸際というのは、経験してみないと分からないことがたくさんありました。その中で僕はトライアウトを“いろんなクラブの方々に見てもらえるチャンス”だととらえて、ネガティブにならず、むしろポジティブにプレーしようと思っていました」

　その姿勢は、第1回のトライアウトから結果として現れる。11対11のゲーム中のことだった。

「僕は本来ボランチなのですが、その時の参加者はボランチが多くて『じゃあ、僕がサイドハーフをやります』って言ってプレーしました。そこでゴールを奪うことができて、結果的にはアピールできたと思います。それと、繋ぐタイプの自分がサイドハーフをやることによって、その部分で自分の色を出し切ろうとも思っていました」

トライアウトの経験を、強みに変える？

　そんな第1回で得た手応えからか、第2回は本来の位置であるボランチで攻守のバランスを取りながらも、機を見て果敢に前線に飛び出そうとするシーンもあった。

　積極的なプレーについて聞いてみると、野崎は強いまなざしでこのトライアウトに臨んだ思いを語った。

「自分で言うのも何なんですけど、21歳の時点でそういうこと（契約満了）になって『トライアウトでプレーした』という経験を強みにしてしまおう！　と思ってるんです。トライアウトって人生を懸けたものだと心から思ったので、これに臨むための準備を前回、今日ともに完璧にやってきました。

　そうやって取り組んでいて気づいたこともあるんです。『今まで、こんな気持ちで毎日取り組んでいたか？』と考えてみた時、当時の自分は“やっているつもり”だったんですが、今思えば、自分に厳しくプレーしていたとはいえないですね」

【次ページ】　長谷部誠もプロ1年目は「ベンチ外」の連続だった。