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メルセデスの優勝を支えた「技術者」。
表彰台に上がったロウ、笑顔の理由。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2014/10/19 10:50
ロウは1962年生まれのエンジニアで、1987年からずっとF1界で働いている。今季のメルセデスは、ロシアGPまで16戦中13勝という圧倒的な強さを発揮した。
ラウダが改革したチームの切り札、ロウ。
ドイツのメルセデスで行なわれた重要な決定のひとつが、2012年9月に実行したラウダの獲得である。この決定は、ラウダの獲得だけが目的ではなかった。ラウダという過去3度チャンピオンに輝いたF1界の重鎮だからこそできる“改革”に期待したのである。
その改革のひとつが、皇帝ミハエル・シューマッハーへ引導を渡すことだった。さらにラウダは、マクラーレンの秘蔵っ子だったルイス・ハミルトンの引き抜きにも成功。そのラウダがチームを改革する最後の切り札として採用したのが、ロウだった。
ロウにとっても、メルセデスAMG入りはひとつの賭けだった。なぜなら移籍する前、ロウはマクラーレンでテクニカルディレクターを務めていたからである。ロウがマクラーレンに入ったのは'93年だから、20年間マクラーレンに在籍していたことになる。
この20年間でマクラーレンは3度ドライバーズ選手権を制している。'98年、'99年、そして'08年だ。しかし、コンストラクターズ選手権は'98年の1度だけだった。ロウは言う。
「ドライバーズタイトルは、文字通りドライバーの栄冠であるのに対して、コンストラクターズタイトルはエンジニアの勲章。私は'92年にウイリアムズでアクティブサスペンションを開発して初めて手にし、'98年にマクラーレンでも獲得したが、それ以降は一度も巡り会うチャンスがなかった。だから、新しい環境へ移るべきだと決心したんだ」
おめでとう、ロウ。そしてメルセデスのスタッフたち。
ロウが加入した'13年、チーム創設から3年で1勝しかできなかったメルセデスAMGは3勝を挙げる躍進を遂げ、コンストラクターズ選手権でフェラーリを抜き2位となった。そして今年、ついに栄冠をつかんだのだ。
約束通り表彰台に立ったロウは、2人のメルセデスAMGドライバーからシャンパンのスプラッシュを浴びた。表彰式の後、びっしょり濡れたチームシャツを脱いで着替えたのは、チャンピオンTシャツだった。
「エンジニアにとって、コンストラクターズチャンピオンというのは、ドライバーズチャンピオンとはまた別の特別な響きがある。'98年以来、16年間、本当に長かった。でも、その価値は'92年、'98年にも負けていない」
そう言って、ロウは「ワールドチャンピオン2014」と描かれたTシャツ姿で、抑えきれない笑顔とともに空港へと向かった。
おめでとう、ロウ。そして、メルセデスAMGのスタッフたち。