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「野に怪腕あり」創価大・田中正義。
“柔らかさ”が生む驚異的な瞬発力。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2014/06/19 10:30

「野に怪腕あり」創価大・田中正義。“柔らかさ”が生む驚異的な瞬発力。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

名前は「せいぎ」と読む。実力が認められ、7月にオランダで開催されるハーレム国際大会の大学日本代表候補となった。

澤村の150kmと田中の150kmは見た目が全く違う。

 こうなると、どうしても球場で見たくなり、神宮に出かけた。東海大学との試合。リリーフでは同点かリードしての登板だったが、この日は2-5と3点リードされてからの登板になった。

 マウンドに上がる。捕手や内野手と並ぶと頭ひとつ抜けている。身長は186cmだそうだ。田中将大に近い(まあ、いきなりヤンキースのエースを引き合いに出すのもどうかと思うが)。投手にしては肩幅が広いのが眼についた。投手はなで肩のほうが大成するというが大丈夫か。早くも親戚やスカウトのような気分でながめている。

 連投のせいか最初はなかなか球速が150kmを超えなかった。先頭打者に死球を与え、バントと盗塁、捕手のエラーで安打は許していないのに1点を失う。少し浮き足立っているのがわかった。

 しかし、点を与えたあとは落ち着きが出て、球速も150km台に乗るようになった。つぎの7回はストレートがしっかりストライクゾーンに行くようになり、3者連続三振を奪う。結局3回投げて、エラーや四死球がらみの失点はあったが、安打は1本も許さず4個の三振を奪った。1週間で4試合目というスケジュールを考えればみごとな投球だった。

 映像で見たときの手首の柔らかさは球場の遠目ではなかなかわからなかった。ただ、体の使い方には常に余裕が感じられた。大学生の剛速球というと、近年ではジャイアンツに入った澤村拓一などが思い出されるが、澤村がいつも思い切り力んで、うなり声をあげるような感じで150km台を投げたのに比べると、田中は2年生なのに力みがほとんどなく、150kmを超える球を投げた時でも、「もっと速いの出せますよ」といっているような感じを受けた。体の奥行きが深いとでもいうべきか。すべてに余裕があるように見えるのは、手首の映像に表れた柔らかさだろう。柔軟性があるから動きに無理な力感が出ないのだ。

柔らかさは、驚異的な瞬発力を生み出す。

 妙な連想だが、名馬トウカイテイオーのパドックを思い出した。トウカイテイオーは足首にあたる繋ぎという部分が非常に柔らかく、パドックを見るとぐにゃぐにゃした歩き方で、故障ではないかと思わせた。その柔らかさが驚異的な瞬発力を生みだしていた。田中の手首もどこか似ているように思えた。

 もちろん投手としてはけん制など学ばなければならないことも多いし、カーブのような遅い変化球を投げるときにフォームが緩むあたりも改善の余地はある。しかし、逸材であることは間違いない。それにしても、日本は投手だけは常に人材が現れるなあ。

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