プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ベンゲルが9年ぶりのトロフィー獲得。
アーセナル、170億円の補強計画は?
posted2014/05/29 10:50
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
「キャリアの中で最も重要な勝利」
'13-'14シーズンのFAカップ優勝監督は言った。その監督とは、もちろん、5月17日のウェンブリー・スタジアムで延長戦の末にハルを下した(3-2)、アーセナルのアーセン・ベンゲルだ。
FAカップは自身5度目の優勝で、アーセナルでの過去18年間で通算8個目の主要タイトルを獲得したベテラン監督の言葉だけに重い。「無冠」が取り沙汰されたここ数年間、「CL出場権はタイトルと同等」と言い続けたベンゲルだが、やはり形ある優勝トロフィー獲得へのプレッシャーを意識せずにはいられなかったということだ。
翌朝の『サンデー・タイムズ』紙の見出しを拝借すれば、最後のタイトル獲得となっていた2005年FAカップ優勝の瞬間から、実に「8年11カ月26日38分20秒後」のアーセナル戴冠。同時に、「(テレビ解説者として)W杯ブラジル大会に発つ6月10日までには新契約締結」という指揮官の公約も報じられた。
自身とは無関係でもクラブの将来を案じるベンゲル。
今季終盤のベンゲルは、最終年に入っていた契約の延長に関する協議を「FAカップ決勝が終わってから」と先送りにしてきた。これまで、アーセナルの指揮官として契約延長の協議について合意の意志を控えるようなことはなかった。
「ベンゲルのファン」を自認する筆頭株主、スタン・クロエンケをはじめとするクラブ経営陣は、タイトル獲得の可否にかかわらず続投を求めていた。推定年俸750万ポンド(約13億円)での新3年契約は、昨秋の時点で提示されていたのだ。来季CL出場を意味するトップ4の座は、FAカップ決勝の2週間前に確保できてもいた。にもかかわらず、ベンゲルはFAカップ決勝前の締結を避けた。
現役のプレミアリーグ監督の中で、ベンゲル以上に「我がクラブ」と言う資格を持つ指揮官はいない。そのベンゲルだからこそ、対外的には「新契約締結はFAカップの結果とは無関係」と言いつつも、もしも決勝で敗れて連続無冠が9季に伸びた場合には、心血を注いできたクラブの今後を考えて、3年契約を拒む考えがあったのではないだろうか?
育てる意識が強い指導者でもあるだけに、いきなりチームを去ることはなくても、1年契約で様子を見ながら、経営陣に後任選定の時間を与えるというシナリオが当人の頭にあっても不思議ではない。ベンゲルほど、自身の続投とは無関係にクラブの将来を考えているプレミア監督もいないはずだ。