プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ベンゲルが9年ぶりのトロフィー獲得。
アーセナル、170億円の補強計画は?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2014/05/29 10:50
ウェンブリーでのFAカップ決勝後にトロフィーを掲げるベンゲル。久々のタイトルが、長期政権にさらなる安定感をもたらす。
格下に2点を先行される最悪の立ち上がり。
FAカップ決勝が始まった直後には、まさかの退任さえあり得るかに思われた。キックオフから8分間で0-2という最悪の立ち上がり。ここ一番での不甲斐ないスタートは、4月のリーグ戦でも指摘されたばかりだった。4位を争っていたエバートンとの直接対決で、前半34分までに2点をリードされ、最終的には0-3で完敗しているのだ。
しかも、ハルに奪われた2点はいずれもセットプレーからの失点。ボールにも相手選手にも反応が鈍いゾーンマークは、失点の原因として度々指摘されてきた。敗戦に終わっていれば、'07年と'11年のリーグカップ決勝に続く3度目の連続無冠となる。一昨季辺りから表面化した、一部のファンによる「ベンゲル更迭要求」が激化する事態は容易に想像できた。
大胆な交代策で延長後半に勝負を決めた。
幸い、アーセナルは立ち直った。
きっかけはサンティ・カソルラの技術が光る17分のFKによるゴールだが、延長後半の逆転劇はベンゲル采配が演出したものだ。智将と言われるベンゲルだが、試合中のベンチワークは「無難」で、「戦況を変えられない」と非難されることもある。だが今回は、60分過ぎにヤヤ・サノゴを投入。昨夏の移籍から得点のない若手FWとの交代を命じられたのは、当日のスタメンではメスト・エジルに次ぐ“ビッグネーム”、ルーカス・ポドルスキだった。
オリビエ・ジルーと予想外の縦2トップを構成したサノゴは、相手DF陣を惑わせる存在となり、71分にローラン・コシェルニーが至近距離から押し込んだ同点ゴールと、延長109分にアーロン・ラムジーが決めた逆転ゴールの双方に絡んでいる。
延長後半には、エジルとカソルラをジャック・ウィルシャーとトマシュ・ロシツキーに二枚替えしている。PKが得意とは言えないウィルシャーとロシツキーを敢えて投入して、PK戦突入前に勝負をつけにいったベンゲルの賭けは、ウィルシャーのパスがサノゴを経由してラムジーにチャンスを提供した決勝ゴールとなって報われた。
「勝負師」としての側面が欠けていると指摘された指揮官がリスクを厭わず、精神面の弱さが問題視されたチームが、大会史上48年ぶりに2点差を跳ね返してFAカップ王者となったのだった。