F1ピットストップBACK NUMBER
フォース・インディア5年ぶり快挙。
日本人エンジニアが打って出た勝負。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2014/04/20 10:40
フォース・インディアにとって5年ぶりとなる表彰台は、ドライバーのセルジオ・ペレスにとっても2年ぶりのことだった。
イスラム教のバーレーンでは公の場にアルコールは持ち込めないため、シャンパンの代わりにローズウォーターを表彰式のセレモニーに使用する。独特の香りが漂う表彰台の下で、3位で表彰台を獲得したセルジオ・ペレスの勇姿を笑顔で見つめていた日本人がいた。
松崎淳――フォース・インディアでタイヤ&ビークルサイエンス部門のシニアエンジニアを務める人物だ。
松崎には苦い思い出があった。それは1年前のバーレーンGPだった。レース中盤まで表彰台圏内を走行していたフォース・インディアのポール・ディ・レスタが、終盤にロータス勢2台の激しい猛追に遭い、2.2秒差で表彰台を逃した。
ロータスは昨年コンストラクターズ選手権4位。表彰台を逃したものの、同6位のフォース・インディアとしては、十分健闘したレースだった。だからこそ、レース後、松崎は悔やんだ。それは地力で勝るロータスに対して、レース終盤保守的な戦いを選択したからだった。
「確実に……表彰台を獲りにいこうと安全策を採ってしまった」
2ストップか3ストップか、松崎の決断は。
あれから1年、フォース・インディアと松崎は再び、バーレーンGPで表彰台を賭けた戦いを演じていた。今年、フォース・インディアと争ったのは前年の覇者レッドブル。しかし、松崎は的確なタイヤストラテジーで、同じ2ストップ作戦のレッドブル2台を抑え込み、確実に表彰台を獲得できるポジションでレースを進めていた。
ところが、レース後半に出されたセーフティーカーによってフォース・インディアと後方との差は一気に縮まり、表彰台は不確実なものとなる。このとき、松崎には2つの選択肢があった。ひとつは、ピットインさせずにそのまま2ストップ作戦を貫き通すこと。もうひとつは、ほかの多くの3ストップ勢と同様、ピットインし2ストップから3ストップに切り替えることだった。
ピットストップロスが小さいセーフティーカーラン中に、もう一度タイヤを新品に交換したほうが、大ケガは防げる。なぜなら、3ストップ勢はみなレース終盤に向けて、タイヤを新品に交換するために、続々ピットを目指していたからだ。しかし、松崎はあえてタイヤを交換せず、34周目(ペレス)と35周目(ニコ・ヒュルケンベルグ)に交換したタイヤで57周目のチェッカーフラッグを目指す決断をする。