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マスターズ、勝者と敗者を分けたもの。
普段着の「現実」と醒めなかった「夢」。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2014/04/14 13:00
20cmのウイニングパットを沈め、2度目の優勝を決めたバッバ・ワトソン。カレブくんを抱き上げ、涙をこらえてギャラリーの祝福をうけた。
15番まで醒めなかったスピースの「夢」。
ようやく現実が見えるようになったのは、リーダーボードを初めて見たという「15番か16番あたり」。だが、ワトソンに追い付き、追い抜くためには、あまりにも遅い覚醒だった。
どうしてスピースの夢は醒めてはくれなかったのか――。
自力と他力の差は、あっただろう。ワトソンは自らの努力と研究と準備を重ね、オーガスタを制した実績と自信を糧に、持てるパワーと得意技を生かして自然体のゴルフを展開した。
だが、スピースは練習ラウンドをともにしたマスターズチャンプのベン・クレンショーにアドバイスを仰ぎ、クレンショーのキャディにコース攻略を教わり、メンタル面のコントロールは自らのキャディに多くを頼るという状況。
それは、若干20歳で初出場のスピースができる最大限の努力と工夫ではあったけれど、突き詰めれば、他力に依存せざるを得なかったスピースのゴルフは、最後には自力勝負のワトソンに跳ね飛ばされる結果になった。
「僕もキャディもオーガスタのことを何も知らない」
とはいえ、「僕もキャディもオーガスタのことを何も知らない」というスピースがマスターズチャンプのワトソンに挑んだ戦いぶりは見事だった。
「バッバはマスターズチャンプに値するゴルフをしていた。完敗だ。僕は勝てなかったけど、メジャーで優勝争いをするという今年の目標をまず1つ達成したから満足。とても楽しかった。勝てなかったけど、ドリーム・カム・トゥルーの気分だ」
そう言って笑顔を見せたスピースは、もしかしたら今なお夢の中にいるのかもしれない。
ウイニングパットをしっかり沈めたワトソンは、18番グリーン脇でよちよち歩きで近づいてきた息子のカレブくんを抱き上げ、愛妻アンジーと抱き合い、うれし涙を流した。サンデーアフタヌーンにワトソンが夢見心地になったのは、この瞬間が初めてだった。
スピースは夢に始まり夢に終わった。ワトソンは現実を戦い抜いて、最後の最後に夢の世界へ。
勝者と敗者を分けたものは、そんな「夢」と「現実」だった。