REVERSE ANGLEBACK NUMBER
体重114kgに、打率はまさかの5割!?
アジャ・井上晴哉と「太目」の系譜。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/03/13 10:40
チーム発表の公式プロフィールによれば身長180cm、体重114kg。“スペック的”には西武・中村剛也、中日・中田亮二らをはるかに上回る日本人最強クラスのバッターだ。
オープン戦の打率は5割を超え、すごいことに。
井上は俊敏といっても代走や守備固めから機会をつかむタイプではない。あくまでも打たないとダメ。打席がすべてである。ただのパワー自慢なのか、小技があるのか。
ホークスとの試合で、先発は左の帆足和幸。2回に1死二塁で打席に入った井上は、いきなり外角のチェンジアップをセンター前に運んだ。タイムリーにはならなかったが、まずはみごとな一打。
つづく2打席めもやはり初球のチェンジアップを振って出てセンター前に運んでチャンスを作る。
第1打席のチェンジアップはあまり落ちずに甘い球だったので、安打になってもそれほど驚かなかったが、2打席目は低めで、コースもきわどかったのに、よく腕を伸ばして運んだ。柔軟な対応力。
この日はその後2打席回ってきたが、すべて初球に手を出していた。ストライクゾーンの球だったこともあるだろうが、新人らしく、どんどん振っていこうという意図が感じられた。この日は2安打で、オープン戦の打率は3月8日時点で5割2分4厘とすごいことになった。
「うまく合わせられました。数字(打率)が自信になっている」
試合のあと、記者に囲まれると、息を弾ませるように語った。息がはずんでいるように見えたのは、スタミナ切れではなく、移動をすべて小走りで行っているからかもしれない。この日は試合が終わってすぐにグラウンドに戻り、一塁の特守に取り組んでいた。
スタッフに愛され、その日一番の声援を受けた。
「アジャ、やったな」
ベンチ裏でチームスタッフとすれ違うと、みんな声をかけてくる。なんとなく、声をかけたくなる存在のようだ。アジャという呼び方も、もう何年も前から使われているように聞こえる。太目の選手にはどこかユーモアが感じられ、それが親しみを生みやすい。井上もチームに溶け込んでいるように見えるのはその体型のおかげか。
スタンドの反応も一番だった。まだ主力が仕上がっていないとか、甲子園のスターのような話題性に富んだ新人が入団しなかったということもあるが、井上に送られる声援は、この日一番大きかった。
塁に出たとき、スタートが遅れて生還できそうなところを三塁止まりになるといった場面もあり、学ぶことは多い。一塁守備も無難にこなしたが、まだ一軍レギュラーを任せられるようなものではないだろう。だが、太目の体で快活に動き回り、ファンにもチームにも活気を与える存在にはなりそうだ。こういう選手を見ていると、「いよいよ温まってきたなあ。野球の季節だな」とこちらの観戦準備も整いはじめる。