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男は黙って。根はそんな、古風。
涌井秀章、無表情の裏の「情」。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2013/12/25 10:30

男は黙って。根はそんな、古風。涌井秀章、無表情の裏の「情」。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

ロッテに、2年総額4億4000万円プラス出来高で迎えられた涌井。先発にこだわる男が、新天地で完全復活を期す。

「カズさんに16番をつけて終わらせてあげたいな、って」

 涌井は2008年オフに背番号を16番から、横浜高校の先輩でもある松坂がつけていた18番に変更した。'07年に松坂が渡米して以来、ずっと球団から打診され続けていたことでもあった。

 変更に踏み切った理由を尋ねたとき、最初は「そこまでの理由はない」「気分転換っすかね」とはぐらかされた。しかし、しつこく聞いていると最後にこう吐いた。

「カズ(石井一久)さんに16番をつけて終わらせてあげたいな、って。16番のイメージが強いじゃないですか」

 '08年に西武に移籍した石井は当時、2009年限りで引退するのではないかとささやかれていた。そこで、18番をつけたいというよりは、石井が愛着を持っていた16番を空けてあげたかったのだ。ただし、性格上それを恩着せがましくすることは好まない。だから、あくまで大先輩のエース番号を継ぐという風を装ったのだ。

「あいつも人間だったんだって思いました?」

 普段「平熱」を装っているのは、情の厚さの裏返しでもある。

 '10年、敬愛していた赤田将吾がオリックスに移籍したときは、そのセレモニーで人目もはばからず号泣したこともあった。

 そのときのことを指摘すると――。

「あいつも人間だったんだって思いました?」

 この調子である。でも、だからこそ、どこか信じられるのだ。

 近年は、週刊誌で女性問題を叩かれるなど、軽いイメージが定着してしまった感もある。だが、こと野球に対してだけは絶対に嘘をつかない男だ。昨シーズン終盤、10試合連続でリリーフとしてマウンドに登り、6日連続でセーブを記録したときのボールがそれを証明していた。

 ここ数年は成績を出し切れていないが、働き場所さえ得られれば、涌井はまだまだできるはずだ。

 男は黙って。根は、そんな古風な男だ。

 そう本人に同意を求めたときのコメントがまた振るっている。

「どっちかというと」

 涌井にとっては最大の肯定だった。

 来年の涌井は注目だ。

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