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男は黙って。根はそんな、古風。
涌井秀章、無表情の裏の「情」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/12/25 10:30
ロッテに、2年総額4億4000万円プラス出来高で迎えられた涌井。先発にこだわる男が、新天地で完全復活を期す。
誤解されやすいタイプなのだと思う。
先日、西武からロッテにFA移籍した涌井秀章のことだ。
まず第一に、涌井は取材中、滅多に笑わない。あるカメラマンが、過去もっとも苦労したのは涌井だと語っていた。どんなにリクエストしても、まったく表情を変えない涌井に「背筋が凍った」と。
本人も取材でもっとも苦手なものはカメラだと告白していたことがある。
「カメラを向けられたりするの、イヤですね。テレビの取材でカメラ目線でしゃべってください、とか。笑顔じゃなければまだいいんですけど、『笑顔で』って言われるとできない」
したがって、カメラを通してみる涌井はいつも無表情だ。
今では親友のウエンツ瑛士も涌井のことを最初は「ふてぶてしいやつだと思った」と苦笑いしていたことがある。
「ヒーローインタビューの話し方とか見ていればわかるじゃないですか」
それでも高校時代に比べれば、ずいぶんしゃべるようになった。
涌井は勝ち投手になっても、たとえば完投を逃したときなどは、お立ち台を拒否することがある。
「納得してないときにあがっちゃうと『今日のピッチングはどうでしたか?』って聞かれても、正直に『別に……』とか言っちゃう。だったら、上がらない方がいいかな、って」
見る角度を変えれば、じつに実直な、愛すべき男なのだ。
それでも横浜高校時代に比べれば、プロ入りしてからはずいぶんとしゃべるようになった。
プロ入り2年目のシーズン終盤のことだった。当時、活躍していたダルビッシュのことについて触れると「あいつもがんばってますよね」とぼそり。その時点ですでに11勝を挙げていた涌井も負けていないと振ると、こう返された。
「コメントがですよ、コメント。あいつも、よくしゃべってるじゃないですか」
この一筋縄ではいかないところも、涌井の味であり、魅力だったりする。