6年契約の長期計画は、まだ始まったばかりだ。

　たしかに、エバートンとマンUでは主力選手の格が違う。モイーズが受け継いだチームは、昨季のプレミア王者である。だが、自動操縦でタイトル防衛を狙えるほどのレベルではない。それだけのチームであれば、その実力者たちを服従させていたファーガソンが去るとなった時点で、他クラブによる引抜き工作が絶えない夏となっていただろう。

　実際に引き抜きの対象となったのは、放出など有りえなかったファンペルシを除けば、ウェイン・ルーニーだけだ。この実情があるからこそ、ベテラン選手の尻を叩き若手の成長を促進しながら、ファーガソンにも通じる、自身の気骨を投影した集団を作り上げられる後任として、モイーズが選ばれたのだ。

　幸い、長い目で見守っているのは、前監督を含む経営陣だけではなく、ファンも同様だ。ウェストブロムウィッチ戦でブーイングが聞かれたことは事実だが、トンネルへと消える新監督には健闘を祈る拍手も送られた。トップ4脱落を心配する声も出始めたが、仮に、それが現実となったとしても、新監督が「借りてきた猫」ではなく、「痛みなくして前進なし」を実感させる姿であれば、絶望視するファンはごく一部に留まるはずだ。メディアでも、6年契約の折り返し地点までにリーグ優勝を実現できれば合格という、就任当初からの見方は変わっていない。

　人々は、ファーガソンが、就任直後の3シーズンを無冠で終えた事実を忘れていない。FAカップ優勝で首がつながった4シーズン目、開幕6試合での戦績は、奇しくも今季のモイーズと同じ2勝3敗1引分けだった。そのモイーズには、混戦が予想されるリーグ優勝争いで勝者となる可能性が、まだまだ残されている。今季の優勝候補は、筆頭格でありながら2敗のマンCをはじめ、既に揃って土がついているのだ。無敗で10月を迎えたプレミア勢は、モイーズが鍛え上げてきたエバートンしかいない。モイーズが「モイーズらしく」あれば、マンUでも道は開かれる。