プレミアリーグの時間BACK NUMBER
マンU過去24年で最悪のスタート。
モイーズは“借りてきた猫”になるな!
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2013/10/09 10:30
第7節アウェイでのサンダーランド戦では、スタメンで初起用した左サイドのヤヌセイの2得点で勝利した。
クラブ伝統の攻撃姿勢と、本来のスタイルの齟齬。
「マンU初心者」としての戦術ミスは、肝心の試合でも見られた。マンC戦での、アシュリー・ヤングとアントニオ・バレンシアの先発起用は、プライドを懸けたダービーで、マンU伝統の攻撃精神を意識したものだろう。だが、アウェイでの強豪対決に適していたとは言い難い。
タッチライン沿いを疾走するタイプの両名は、自陣の中央にスペースを生んだ。おまけに、主戦場のアウトサイドでも、相手のサミル・ナスリとヘスス・ナバスに押される一方だった。積極姿勢を見せるのであれば、ほぼ何もできなかった両ウィンガーのいずれかをハーフタイム中に代え、後半の頭から反撃を試みるべきだった。しかし、前半に2点を奪われたモイーズは、元来の慎重な一面が顔を出して判断が遅れた。
試合前後の発言からも戸惑いは窺える。「過渡期には痛みが付き物。今後も覚悟している」とのコメントは正直な発言ではあるが、新体制に時間が必要なことは、既に周囲の誰もが認識しているはず。であれば、敢えて強気に、マンU指揮官としてのプライドを示すべきではなかったか。「CL優勝を狙うには5、6名のワールドクラスが必要」という発言にしても、既存の選手たちにすれば、モチベーションが高まるはずはない。
エバートン時代の「威厳」を取り戻すために。
しかしながら、ではモイーズは力不足なのかと訊かれれば、「ノー」と答える。開幕1カ月半の失敗を教訓とし、ファーガソンの後任に抜擢された理由である、指揮官としての本来の姿を取り戻せば、マンUでの再スタートは可能と思われるからだ。
エバートン時代のモイーズは、確固たる信念を持って全権を掌握する、威厳ある監督だった。不甲斐ない出来を見せた選手には、休日を返上させて、自ら練習グラウンドでしごいた。チームが自身の意図した以上に前掛かりになって危機を招けば、そのスタイルが傍目には「積極的」と好評でも、「あんなサッカーは指示していない」と、険しい表情で試合後に語った。
この、堅実という名のエバートン時代の「殻」は、マンUでは破っていかなければならない。しかし新任地で自分のチーム作りを進める土台を築くために、後方の引き締めを意識しても悪くはないだろう。そもそも、モイーズが引き継いだマンUは、ロビン・ファンペルシのゴールに頼るチーム。「敵より多く点を取れば勝ち」という、クラブ伝統の攻撃サッカー精神で邁進することは難しいのだから。