オフサイド・トリップBACK NUMBER
モウリーニョの影に踊らされて……。
インテル&ベニテス監督が急失速!
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2010/11/29 10:30
得点ランキングトップを走るエトー。昨年の得点ランキング12位という成績を考えると……いかにベニテスの戦術変化が大きいのかが分かる
ベニテスに影響を及ぼし続けるモウリーニョの言葉。
では、なぜベニテスはインテルのサッカーを変えたのか。
鍵を握るのはモウリーニョである。シーズン開幕前、モウリーニョはベニテスに盛んにメッセージを送っていた。
「ベニテスは自分の好きなように(チームづくりを)できるが、頭を使い、私がすでに築き上げていたものを活かすべきだ。すべてを変えようとするんじゃなくてね。私は新しいクラブに来た時にはいつもそうしたし、ペップ・グアルディオラもフランク・ライカールトから監督の座を継いだ時には同じことをしている。私に言わせれば、それが賢い監督というものだ」
「ベニテスには成功してほしい。だがそれは私が彼を好きだからじゃない。彼が率いているクラブは、私や私のファン、そして私の会長(モラッティ)の持ち物だからだ」
さすがにここまで挑発されれば、意識するなというほうが無理だろう。ベニテスは「選手たちがやり慣れている方法論を踏襲しようと思っていた」と語っているが、内心ではモウリーニョと違う方法論で勝ちたいと、忸怩たる想いを強くしていたに違いない。
地元メディアにも選手にも受けが良いベニテスだが……。
たしかにベニテスのアプローチを好意的に捉える見方もなくはない。
「モウリーニョのサッカーよりもカテナッチオ的ではない」「個々の能力に頼るのではなく、チーム全体で組織的にプレーしようという意図が窺える」といった指摘は現地の識者から時折聞かれるし、事あるごとにメディアと対立していたモウリーニョに比べ、ベニテスは紳士的で好感が持てるという意見もある。
受けがいいのは選手も同様。本来のポジションであるCFに戻されたエトーなどが特に上機嫌なのは言うまでもない。曰く「気分はいいよ。フォワードはゴールの傍でプレーするのが大事だからね」。
しかし配下の選手に対していかにリベラルな態度を取り、かつピッチ上で「いいサッカー」を追求したとしても、チームが弱くなってしまったのでは元も子もない。このままでは、まさにモウリーニョの思う壺。ベニテスは天敵の術中に嵌ったまま、恥の上塗りをしつつある。