オフサイド・トリップBACK NUMBER
チームメイトがあのベッカム!?
レスター・阿部勇樹の正念場。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2010/11/15 10:30
経営面でも大きな転換期を迎えているレスター。
他方、レスターは経営面でも転換期にさしかかっている。
2007年以降、レスターではセルビア系のアメリカ人実業家、ミラン・マンダリッチがオーナーを務めてきた。彼は近年イングランドサッカー界に進出してきた典型的な外国人投資家の一人で、'99年から'06年まではポーツマスのオーナーとして活動していた。
マンダリッチは「やり手」として知られ、豊富な資金力や強力なリーダーシップを武器に、'02-'03シーズンにはポーツマスをプレミアに昇格させることに成功している。
レスターが2シーズン前にフットボールリーグの1部(事実上の3部)から現在のチャンピオンシップ(2部)へ昇格したことや、今回、エリクソンが監督に就任したのもマンダリッチの力に負うところが大きい。
新オーナーを迎えて高まる期待と勝利へのプレッシャー。
ちなみにマンダリッチは、強引すぎる手法(オーナーに就任してからの3年間で監督が7人も交代)や、金銭を巡るよからぬ噂(ポーツマスオーナー時代の脱税疑惑など)でも話題になる人物でもあったが、彼は10月下旬にオーナーを離任。レスターは新たにタイの空港で免税店を運営する「キング・パワー・グループ」の傘下に置かれることになった(オーナー交代の申請自体は8月に行われていたが、リーグの認可を得るまで異例の3カ月を要した)。
「キング・パワー・グループ」の経営者は、雑誌「Forbes」などのランキングにも掲載されている人物で、本拠地の名前を「ウォーカー・スタジアム」から「キング・パワー・スタジアム」に変更することを試みたり、タイにレスターと共同でサッカーのアカデミーを設立しようとするなど、非常に精力的な活動を展開している。
だがマンダリッチはクラブの株式を売却した後も会長職に残留しているし(これも異例である)、新オーナーが金をつぎ込めばつぎ込むほど、チームには勝利が絶対条件として義務付けられることになる。その点でレスターは、まさに「のるかそるか」の賭けに出ているともいえるが、現地の識者は経営陣の交代を概ね好意的に捉えているようだ。
新監督にも十分に認められている阿部の実力。
シーズンが開幕して3カ月足らずでの監督交代。新オーナーの就任。そして何よりも予想外の成績不振。レスターは激動と変革の最中にある。果たして阿部の運命はどうなるのだろうか。
基本的に阿部は前監督のソウザ時代に加入した選手だが、幸いにして周囲の評価は悪くはない。まずプレーについて言えば、レスターでは失点の多さが最大の問題となっていただけに、阿部の守備能力の高さは定評を得つつある。
またこれまでは途中出場するケースが多かったが、10月30日のプレストン・ノースエンド戦では4-4-2の右MFとして先発。この試合唯一のゴールをアシストし、攻撃でも貢献できることをアピールした。エリクソン曰く。
「アベはどんどんよくなっている。アウトサイドライド(右サイドのMF)はベストのポジションではないかもしれないし、中央でプレーしたほうがいいかもしれないが、彼は新しい役割に対応し、頼んだとおりのことをしてくれた。今日の彼は素晴らしかったと思う。彼はすぐれたフットボーラーだ。疑う余地がない」
阿部は11月6日に行われたバーンズリー戦でも先発。プレストン戦以上に攻撃の組み立てに冴えを見せ、2-0の勝利に貢献した。