ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
雨中のシエラネバダでの遭難と、
歩くことが求める「謙虚さ」。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/08/08 10:30
遭難直前の井手くん。この時は雨中でも「かっこつけた」(本人談)写真を撮る余裕があった。
人の多さに孤独を感じるなんて。
そこからヨセミテ・ヴィレッジまで歩き、全長340kmのJMTを完歩した頃には、トレイルは人混みで溢れていた。滝壺も、なんだかディズニーランドのアトラクションの一部みたいだ。
日本で例えるならば、上高地や室堂のような感じだろうか。
インド人、中国人、日本人。ツアーガイドに引率された観光客たち。ヴィレッジを巡回する無料バスは東京メトロさながらの混雑ぶり。ポップコーンを脇に抱え、ぺちゃくちゃと喋るアメリカ人たちは動物のようだった。
僕の周りのPCTを歩くバックパッカー達はクレイジーでこそあれ、成熟した大人であったのだとここで初めて気がついた。
かつて岩に登ることがロックンロールであった時代の伝説のキャンプサイト「キャンプ4」にも、そんな荘厳な雰囲気はなかった。
家族連れが目立つ人混み。押しつぶされそうになりながら一人バスで見どころを巡回したが、淋しさが募るばかりであった。正直、早くPCTに戻って一人で静かに山を歩きたいと感じてしまった。人の多さに孤独を感じるなんて。
眠らない「町」でキャンプし、翌朝のバスを待った。
思わぬところでSweat Jesusと再会。
「町」の朝は静かだった。皆遅くまで起きていて疲れているようだ。悪くない雰囲気である。
僕はTuolumne Meadows に戻るバスを待ちつつ、パンを齧る。すると、よく知っている青年の姿が目に飛び込んで来た。Sweat Jesusである。なんでも、彼は家族と共にヨセミテ・ヴィレッジでオフを過ごしていたのだとか。
彼も同じバスでTuolumne Meadowsに戻るのかと思いきや「いや、ヒッチハイクして行くよ」とウィンクを飛ばしてくる。
僕は片道14ドルの観光バスのチケットを握りしめ、「グッドラック」と伝える。
バスの車中では、運転手がガイドを兼ね、要所で車を停めて説明をしてくれた。中でもエルキャピタンのクライミングにまつわるエピソードは興味深く、日本人クライマーの平山ユージさんの名前が聞こえた時にはなんだか誇らしかったものだ。
景色の良い所では、観光客のためにトイレ休憩を取ってくれるのだが、なんだか物足りない。やはり自分の足で歩いて辿り着いた湖や岩陰、そこに流れる小さな川の方が美しく感じる。