プレミアリーグの時間BACK NUMBER
スキャンダルなんて関係なし!
国民は“至宝”ルーニーを愛し続ける。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2010/09/15 10:30
代表で久しぶりに得点を挙げたルーニー。 買春スキャンダルにもかかわらず、その人気は衰えを知らない
8月28日の得点はPK。9月7日の得点は至近距離でクロスに合わせたもの。いずれも平凡なゴールのようだが、イングランドは沸いた。それもそのはず。この2ゴールで、ウェイン・ルーニーの「ゴール欠乏症」に終止符が打たれたのである。マンチェスターUのファンにとっては、昨季終盤の3月から5カ月ぶり、イングランド・サポーターにとっては、昨年9月から実に1年ぶりという待望のゴールだった。
イングランド国民は、今から8年前、16歳の少年がアーセナルを相手にリーグ最年少得点記録を塗り替える衝撃のミドルを決めたその瞬間、ルーニーという名の「至宝」に母国の運命を託したと言ってよい。以後、ルーニーに寄せられている期待の大きさは、イングランドの「顔」として長年活躍してきたデイビッド・ベッカムや、代表の「魂」とも言われるスティーブン・ジェラードへのそれをも上回るようになった。
南アW杯でノーゴールに終わるも、国民は暖かい拍手を。
「ルーニーを大切に。イングランドには彼が必要だから」と言ったのは、W杯ドイツ大会後に代表監督を降りたスベン・ゴラン・エリクソンだが、実際、国民はルーニーに寛容だ。
南ア大会で、ノーゴールでいいところなしと最も期待を裏切ったのは他ならぬルーニーのはずだが、代表落ちを求める声は上がらなかった。W杯後の代表初戦(親善試合)でサポーターのブーイングを浴びはしたが、スタンドからは同時に拍手喝采も送られている。9月3日からのEURO2012予選2試合を前に、ファビオ・カペッロ監督がルーニーのスタメン落ちを考えているという噂が流れると、「ルーニーの名前がないチームシートはカペッロの遺書になりかねない」という意見が識者からもファンからも聞かれた。
醜聞連発もお咎めなし。ピッチ上のルーニーを国民は支援。
初戦、無事にエースが先発で起用されたイングランドは、ブルガリアを4-0で下して好スタートを切った。
しかしその直後、一部のタブロイド紙がルーニーのスキャンダルをすっぱ抜く。妻の妊娠中に高級娼婦に手を出していたという報道だ。だが、ここでも国内の反応は非難囂々とはならなかった。「夫」としては家庭崩壊を招きかねないけしからぬ行為だが、むしろ、世間は「選手」としてのルーニーの支援に改めて力を入れた感があるのだ。
続くスイス戦でのルーニーは、サポーターにキックオフ前から名前を連呼され、仕事を終えて79分にピッチを退く際には、スタンディング・オベーションで見送られている。客観的に見ると、この試合のルーニーがスタンディング・オベーションに値するほど最高の出来だったかどうかは怪しい。しかし、得点と創造性をチームに与える才能があることを、改めて証明したことは間違いない。