濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
K-1トップの佐藤嘉洋が後楽園に!
『Krush』で見せた貫禄と精神性。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2010/09/02 10:30
空手を軸にキックの舞台で勝ち上がってきた名城裕司(写真左)に対して、佐藤嘉洋は怯むことなく、ローとヒザを出し続けた
左のまぶたが青く変色し、鼻からは出血していた。それでも、佐藤嘉洋の表情にはわずかな変化もなかった。
8月14日の『Krush』後楽園大会、そのメインイベントで、佐藤は名城裕司と対戦した。同イベントの中心選手である山本優弥の急病による欠場を受け、佐藤に出場オファーがあったのは試合2週間前のことだ。K-1 MAXの日本人トップ選手にして中量級日本最強と謳われる大物への、意外な出場要請だった。
大物が“代打出場”を決意した理由。
大物ファイターがこの大会に出場することになった背景には、佐藤のキャリアが関係している。彼は、かつて『Krush』の前身である全日本キックボクシング連盟に所属していた。しかし、K-1に出たいという思いから連盟を脱退した過去がある。試合を終えた佐藤は、5年半ぶりとなる“里帰り”への思いを打ち明けた。
「感慨深かったです。自分のような裏切り者に、メインイベントのオファーをしてもらって……。全日本キックを飛び出して、迷惑をかけて。この5年間、辛いものがありました。でも、試合が終わって宮田さん(『Krush』プロデューサー・宮田充氏)の目を見ることができた。本当に『ありがとうございます』という気持ちです」
彼にとって、『Krush』で試合をすることは、どれだけスターになっても消せないままでいた過去のわだかまりと向き合う行為だったのである。
対戦相手の名城は、キャリア5戦ながら元・全日本キック2冠王の山内裕太郎、ニュージャパンキックボクシング連盟のチャンピオンである健太に連勝し、波に乗っている。彼の猛攻は佐藤の目と鼻に爪痕を残した。観客を驚かせるには、それだけで充分だった。
シンプルな攻撃を続けた佐藤の“確信”。
だが、会場の中でただ一人、佐藤だけはまったく驚いていなかった。
試合前日の会見で、佐藤は「実績が違うと言われているけど、楽勝だとは思ってない。名城選手は決して弱くないですよ」とコメントしている。名城の試合テープをすべてチェックしたとも。
日本武道館で魔裟斗やブアカーオ・ポー・プラムックと対戦した時と同じテンションで、佐藤は後楽園で名城と闘ったのだ。