濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
エース・石岡が敗れる大波乱!
『JEWELS GP』の強烈な驚きと残酷さ。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakeshi Maruyama
posted2010/08/15 08:00
判定で勝ち鬨を上げた能村さくら(写真左)に対し、石岡沙織(写真右)は落胆したまま会場を後にした
トーナメントが盛り上がるために欠かせない要素の一つが、アップセットである。優勝候補が敗れる波乱、その驚きと残酷さが見る者の熱を高めるのだ。
7月31日、女子MMAイベント『JEWELS』(新宿FACE)で開幕したライト級初代女王を決めるトーナメントにも、強烈な驚きと残酷さがあった。メインイベントに登場した石岡沙織が完敗を喫したのである。
石岡は一昨年の旗揚げ戦でもメインを任された、『JEWELS』のエース的存在。別格の“リビング・レジェンド”藤井惠を猛追する、新世代の旗手である。トーナメントを制してベルトを巻くことは、彼女のキャリアにとってだけでなく、女子MMAの歴史においても重要だったと言っていい。ところが、そんな石岡が一回戦で敗れた。しかも相手はデビュー3戦目の選手である。
キャリア3戦目でも、能村は“格上”だった!?
とはいえ、石岡を下した能村さくらは単なるルーキーではなかった。柔道歴20年、全日本学生選手権で優勝した実績も持つ一級品のアスリートである。石岡も柔道経験者だが、全国区の選手ではなかった。MMAと柔道は別物だが、“闘う者”としてのキャリアや“揉まれ方”では、むしろ能村のほうが格上と言っていいかもしれない。
実際、試合が始まると、能村は抜群のタイミングで足払いを決めテイクダウンに成功。1R中にもう一度、2Rにも寝技に持ち込み、5分2ラウンドの試合時間のほとんどを支配してみせた。パスガード、サブミッションも積極的に狙っていく。逆に石岡は、ディフェンスに体力の多くを費やさざるをえなかった。3-0の判定は、試合が終わった瞬間に会場の誰もが確信、あるいは覚悟していたはずである。
もちろん、能村は柔道の“貯金”だけで勝ったわけではない。打撃をかいくぐって得意の組み手に持ち込むこと、長時間の寝技、それに道着を掴めない中でのテクニックなど、MMA特有の攻防をクリアしたからこそエースを破る金星を挙げることができたのだ。
地元・石川県のジムに所属している能村だが、地方ゆえの女子選手層の薄さもプラスに作用した。試合を終えた能村は「石岡選手は強かった。でも私は練習相手が男子しかいないので、力の面では“どんだけ強いんだろう?”と思ってました」と語っている。強さの基準が女子の枠に収まっていないのだ。