プレミアリーグの時間BACK NUMBER
チェルシーをEL初優勝に導くも……。
最後まで愛されなかったベニテス。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2013/05/21 10:30
どことなしか、笑顔がぎこちなかったEL優勝時のベニテス。選手達が喜びを爆発させている中で、その表情が印象的だった。
ランパード、ダビド・ルイスらの絶妙な起用も。
例えば、引分けに終わったトッテナムとのプレミアリーグ第33節では、少なくともランパードの投入が有効と思われたが、指揮官は前節から中2日だったためベンチ温存を選んだ。その判断は、3日後の第37節アストン・ビラ戦で、トップ4を確定する活躍によって報われた。同点と逆転の2ゴールを決めたランパードは、チェルシーでの通算得点を203に伸ばし、MFにしてクラブ歴代得点王にも躍り出た。続くベンフィカ戦では、ラミレスの2列目起用により、珍しく中3日での連戦となった。だが、休養を与えられながら今季末を迎えたランパードは、深い位置で守りながらも機を見て上がり、前後半に、結果的には相手GKのセーブとクロスバーに阻まれたミドル2本で、先制点と勝越し点に迫っている。
ランパードと中盤でコンビを組んだダビド・ルイスのMF起用も、CBとしての加入から4人目の監督に当たるベニテスが初めて試したものだ。
ベンフィカのパス回しに翻弄されたように、トップレベルのボランチと化すには、ポジショニングなど、中盤でのノウハウを身につける必要がある。とはいえ、DF離れしたパスやシュートの能力が生かされる利点は、2得点を上げたEL準決勝バーゼル戦をはじめ、現時点でも実証済みだ。
代わりにベニテス下では、イバノビッチにCBとしての起用が増えることとなった。ロベルト・ディマッテオ前監督時代には右SBとして重宝されたが、堅実さでルイスを凌ぎ、1対1ではギャリー・ケーヒルを上回り、空中戦ではテリーにも引けを取らないイバノビッチは、現状では最も頼れるCBであり、妥当な判断だっただろう。また、CKに頭で合わせたEL決勝でのゴールは、セットプレーにベンフィカの弱点を見た現監督が、練習で時間を割いたパターンの成果だという。
トーレスを復活させ、EL優勝を果たしても認められなかったベニテス。
先制ゴールを決めたフェルナンド・トーレスは、EL決勝トーナメントの全ラウンドでゴールを決め、今季の合計を22得点に伸ばした。うち15得点が監督交代後の数字だ。
就任早々、「ジムでも汗を流す必要がある」と指摘していたのはベニテス。1人目のマークをふりほどき、伸ばした腕で2人目との距離を保ちながらボックス内に侵入し、GKをかわしてバランスを崩しかけても倒れずに決めた独走ゴールは、強さを増した肉体が可能にしたと言える。膝に入れたメスが奪ったスピードは戻らないにしても、20得点以上はリバプールでの移籍1年目以来。古巣での恩師は、就任理由の1つともされたトーレス蘇生に関しても結果を出したと言って差し支えない。
それでもベニテスは、チェルシーの監督としては認められなかった。
優勝セレモニーでトロフィーを掲げた際には、スタンドから拍手喝采が起こったが、これも純然たる信任の意思表示ではなかったようだ。アムステルダムの夜、スタジアムからの帰りの電車内で歓喜の合唱を続け、市内のバーで勝利の美酒に酔っていたチェルシー・サポーター。彼らに尋ねたところでは、リバプール監督時代に、チェルシーを見下す発言があった事実を、詫びることはもちろん、認めすらしないベニテスが、どこか居心地悪そうに、控え目に祝勝の輪に加わる姿が愉快だっただけとのことだった。