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プロ3戦目で日本ランク1位を圧倒!
“怪物”井上尚弥は何が凄いのか?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2013/04/17 11:30
次のデビュー4戦目で日本タイトルを奪取すれば、辰吉丈一郎と並ぶ最速記録となる井上。日本王者・田口も対戦を熱望しているという。
対戦相手の佐野友樹も、高いKO率を誇る実力派だった。
周囲の言葉通り、プロのリングに立った井上はデビュー戦で東洋太平洋ミニマム級7位に圧勝(1回1分50秒KO)し、2戦目ではタイのライトフライ級王者を簡単に倒して見せた(4回2分4秒KO)。そのパフォーマンスは見事だったが、いくら立派な肩書きを持つとはいえ、モチベーションに左右されやすい外国人ボクサー相手では信用できないところがある。
はたして井上は本物なのか――。
かすかに残る疑いを払しょくするという意味で、今回の佐野は、井上の現時点での力量を計る恰好のバロメーターだった。
佐野の戦績は23戦17勝12KO2敗4分。いかにもプロ叩き上げといった風貌ながら、アマチュアで64戦のキャリアを誇る。突出した武器は持たないものの、ワンツーを主体とした基本に忠実なボクシングが持ち味で、全体的にまとまった好選手である。
2年前に初めて日本タイトルに挑戦し、勝ち名乗りを受けてもおかしくない内容で惜敗しているから、日本王者と同等の実力を持つと見て問題ないだろう。
その佐野に井上は完勝した。
プロ半年にして……佐野よりスピード、パンチ力、技術で上回る。
はっきりとした力の差を見せつけた。
スピードやパンチ力はもちろん、技術でもキャリアのある佐野を圧倒していた。2回に左フックで最初のダウンを奪い、3回に右拳を痛めて左手1本の戦いを余儀なくされながら、4回にも左カウンターからダウンを演出し、最終10回、TKO勝ちに持ち込んだのである。
左手1本で戦うという限定された状況が、井上の技術を際立たせた。
ジャブがあれだけ当たるのは、タイミングの良さに加え、アングルが多彩だからだ。
得意の左フックも速いだけではなく、アッパー気味に打つなど角度を変えるので、こちらもどこから飛んでくるのか分からない。
さらに、左だけで組み立てたダブル、トリプルといったコンビネーションも見事。
相手が格下だからできる、という見方もあるかもしれないが、もし日本1位が格下とすれば、既にかなりのポジションに到達していると言える。
そしてもう一つ、井上のボクシングの土台をなしているのが、パンチをしっかりと打ち抜く、という技術だ。