WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
足で勝って、足で負けた侍ジャパン。
あの8回裏の重盗シーン、全真相。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/19 12:10
「連覇してくれた選手の方々もいらっしゃいましたし……そういうものを全部、自分が止めたような気がして申し訳ないです」と責任を全部ひとりで背負うようなコメントを残した内川。
では、なぜ内川は途中で止まれなかったのか?
作戦としてはどちらも選択肢としてあるが、この場合、盗塁するなら100%成功する確信がなければ走れない場面であることだけは間違いない。
だから盗塁といっても、次の1球で走れという「ジス・ボール」ではなく、「いけるタイミングを計って行け」と選手の判断に委ねざるを得ない。走者が成功の確信を持てるタイミングで走らなければならないからである。
この場面はそれぐらいに成功確率が高くなければ、ギャンブルは許されないわけだ。そう考えると、それを選手の判断に委ねなければならない重盗そのものが、逆に作戦としては中途半端だという考えも当然、出てくることになるわけである。
そして最後の一つは、なぜ内川は井端が止まった時点で自分も走るのを止められなかったのか、ということだ。
重盗の時の一塁走者の不利とモリーナの強肩を意識していた内川。
本人も認めているように、このプレーで明らかなミスはこの内川の走塁である。
重盗を含めて、すべての走塁は前の走者の動きに合わせて後ろの走者も走らなければならないのが鉄則だ。この場合も内川は井端がスタートを切った瞬間に、合わせてスタートを切らなければならないし、井端が盗塁を止めたら自分も止まらなければならない。
ただ、内川の心理的な重圧は十二分に分かる場面でもあるのだ。
前述したように一、二塁で重盗をする場合には、一塁走者は二塁走者のスタートを見てから自分もスタートを切る。そのため最初の一歩の踏み出しが一瞬だけ遅くなってしまう。その分、捕手が二塁に送球したときには、アウトになる確率も高くなるわけだ。さらにモリーナの強肩も頭にある。
だから「スタートだ」と思った瞬間に、内川は顔を下げて必死に二塁に向かって走ってしまった。
やはり100%成功しなければならないというプレッシャーが、内川にそんな初歩的なミスを犯させてしまったわけである。
「一つ先の塁に行かせる姿勢だった。失敗したが、悔いはない」
試合後の会見。山本監督はこの場面をこう振り返っている。