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井岡一翔の右ストレートが証明した、
ボクシングにおける1.36kgの物理学。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byAkihiro Sugimoto/AFLO SPORT

posted2013/01/09 10:30

井岡一翔の右ストレートが証明した、ボクシングにおける1.36kgの物理学。<Number Web> photograph by Akihiro Sugimoto/AFLO SPORT

日本最速プロ11戦目での2階級制覇を達成。さらに日本ボクシングコミッションによる年間表彰では2012年MVP、年間最高試合(八重樫東との王座統一戦)の2冠と最高の1年を終えた。

ダウンを奪った右ストレートに見た“1.36kgの破壊力”。

 最近の日本人ボクサーはボディを打つのがうまい選手が増えた。スーパーフェザー級の内山高志などもそうだが、中でも井岡は抜群にうまい。軽いクラスにもかかわらず、左のボディで相手を倒せる選手はそうはいない。

 だが、この日はボディ以上にストレートが効果的だった。切れのあるクリーンヒットというよりは、相手にめりこむような力強い右ストレート。試合が決着したのは6回だが、そのきっかけになった、この日2度目のダウンシーンはその右ストレートによるものだった。このときの相手の倒れ方が印象的だった。パンチを受けた瞬間に倒れるのではなく、ひと呼吸置いてからひざを着いたのだ。まるでパンチの毒が時間をかけて体全体に回ったような倒れ方。あのパンチほど1.36kgの破壊力を見せつけた瞬間はなかった。立ち上がった相手へのフィニッシュは付け足しのようなものだった。

4階級制覇をめざす上で体重増の威力は敵か、味方か?

 1.36kgは井岡の体重からすると2.8%ほどになる。小さい数字にも思えるが、たとえば、体重500kgの競走馬でいうと14、5kgに相当する。これだけの増減は相当成績に影響する。井岡のパンチの威力が見違えるようだったのもうなずける。

 ほとんど凡戦のない井岡だが、それでもやはり今回の試合は11戦のキャリアの中のベストだろう。倒れたのを見きわめてコーナーに戻るときの足取りは、珍しくわずかに外またで、微妙におやじくさく、それだけ満足感が伝わってきた。

 問題は、この階級でこれだけ完璧な試合をしてしまったことだ。それはライトフライ級が井岡の最適階級であることを示している。井岡は4階級制覇をめざしている。フライ級のリミットは50.802kg、スーパーフライ級は52.163kgだ。最適な階級から上となると、長谷川の例でもわかるように自身のパンチの威力よりも相手のパンチの衝撃のほうが大きくなることが予想される。体重の物理学の威力を実感した井岡が、今度はその脅威に泣くことになるかもしれない。みごとなTKO勝ちだっただけに、かえってそのことが気になった。

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