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香川真司の復帰3連戦を検証する。
メディアは低評価も実際は……? 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2013/01/09 10:32

香川真司の復帰3連戦を検証する。メディアは低評価も実際は……?<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

復帰3戦目となった1月5日のFA杯ウェストハム戦。香川はリーグ開幕戦以来となる90分フル出場を果たしたが、マンチェスター地元紙の採点ではチームで最低の5点と厳しい評価が下った。

得点には結びつかなかったが、随所に見せた光るプレー。

 たしかに、プレーメイカーとしての目に見える貢献はなかった。香川は、チームの2ゴールに絡んでいない。但し、マンUでは開幕戦以来という90分間の中で、その存在が見えなかったわけではない。

 中盤の両サイドが、若いトム・クレバリーと、SBが本職のラファエウであったこともあり、香川は、クオリティと左右のバランスが不足していたダイアモンドの頂点から頻繁に下がっては、底辺のポール・スコールズからボールをもらってビルドアップを試みた。

 ダニー・ウェルベックがネットを揺らした16分、中央に折り返したエルナンデスのオフサイドでゴールは無効となったが、幻の先制アシスト役に通した香川のパスは、コースもスピードも絶妙だった。

 1対1で迎えた36分、ウェルベックが逃した勝ち越しの絶好機も、香川がお膳立てしている。ウェストハムのCK後、中盤で拾ったクリアボールを、相手DFを背負いながらキープし、素早いターンから敵陣内のスペースに出したパスは、セットプレー時に自らに与えられているカウンターの起点としての任務を果たす1本だった。

メディアで酷評された理由は、疑問視される“強度不足”。

 にもかかわらず、メディアで酷評された理由には、技術の確かさと感覚の良さは既に認められている一方で、疑問視される強度不足を窺わせたこともあったと思われる。日本人選手の特徴とも言える、「綺麗」なプレーが得意な司令塔には、パスの出し手としても受け手としても、「剛健」な隠し味を身につける必要があるだろう。

 例えば、28分の一場面。香川は、自陣内での五分五分の競り合いでアルー・ディアッラに敗れ、シュートに持ち込まれた。エルナンデスからのパスが短かったとはいえ、1分前に同点に持ち込んだウェストハムを勢いに乗せてはならなかっただけに、より果敢にロストボールの阻止に努めるべきだった。追う立場での54分、敵に囲まれて足下が狂ったパスを体を張って物にし、香川のパスミスを1つ減らしたクレバリーのように。

復帰3連戦は、 地味ながらも平均すれば及第点の出来。

 プレッシャー下で、パスやタッチの精度を欠いたことによるロストボールは3度。多発とまでは言えず、リカバリー姿勢も合格点だったが、先制ゴールに至る過程で、敵のプレスを受けながらも、きっちりと10mほど先のエルナンデスにパスを届けたスコールズとは対象的だった。

 もっとも、こうした改善点は、デビュー後間もなく、フィジカル改善の必要性を自覚していた香川であれば、一朝一夕とはいかずとも、実戦向きのコンディションを100%に戻していく過程で並行して強化を計ることができるはずだ。

 復帰3連戦で、地味ながらも、平均すれば及第点の出来で3時間近い実戦をこなした香川は、「前線のチームメイトたちに負けていられない」と、モチベーションを高めている。昨年の「アジア国際最優秀選手」としては物足りなくとも、マンUの「レギュラー候補選手」にとって、ピッチ上で迎えた地に足の着いた年越しは、決して悪くはない。

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