欧州サムライ戦記BACK NUMBER
香川真司の復帰3連戦を検証する。
メディアは低評価も実際は……?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/01/09 10:32
復帰3戦目となった1月5日のFA杯ウェストハム戦。香川はリーグ開幕戦以来となる90分フル出場を果たしたが、マンチェスター地元紙の採点ではチームで最低の5点と厳しい評価が下った。
日本のサッカーファンが待ち望んでいた、香川真司の戦列復帰。しかし、膝の怪我が癒え、約2カ月ぶりにマンチェスター・ユナイテッドの選手としてピッチに立った香川は、年末年始の3連戦で、「アジアの顔、ここにあり」を、イングランドのサッカーファンにアピールすることはできなかった。
国内メディアで最も脚光を浴びたマンU選手は、CBのネマニャ・ビディッチと、CFのロビン・ファンペルシだった。やはり膝の故障から復帰して間もない前者の存在は、香川の復帰初戦となった12月29日のWBA(ウェスト・ブロムウィッチ)戦(2-0)で、リーグ戦では1カ月ぶりとなる無失点勝利を可能にした。香川と同じく昨夏に加入した後者は、WBA戦では駄目押しゴール、続く元旦のウィガン戦(4-0)では2得点、4日後のウェストハム戦(2-2)では、FAカップ早期敗退を避ける同点ゴールを決めて、圧倒的な存在感を示した。
だが、新加入の身で前半戦の半分を棒に振った香川が、抱えていたに違いない焦燥感や、期待の裏返しである、母国ファンと報道陣によるプレッシャーを考えれば、静かな再出発はマイナスではない。プレミアリーグの花形の1人、ウェイン・ルーニーとポジションを争う「プレミア1年生」が、立派な目標であるマンUでの定位置獲りを達成する上では、2カ月間のブランクと怪我の不安を感じさせることなく、無難に連続出場を果たした点を収穫と捉えてもよい。
「戻ってきた」と感じさせた、先制点を導くチャンスメイク。
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初戦での香川は、雨で試合開催さえ危ぶまれた重いピッチで、少なくとも、他の選手と比べて全く遜色のない動きを見せた。試合後、「シンジの出来には満足している」と語ったアレックス・ファーガソン監督の発言は、日本メディア向けの社交辞令ではなかったはずだ。ルーニーの欠場もあるが、最適と思われるトップ下での先発起用という指揮官の判断に対し、上々のパフォーマンスで応えたと言える。
紙面に掲載されるような基本データ上はシュート1本のみだが、交代までの65分間で30本のパスを交わした香川は、試合開始僅か9分で、今季は組織力を武器に上位につけているWBAの守備をこじ開けた。
ふわりと浮かせたラストパスは、敵のクリアミスも手伝ってアシュリー・ヤングに渡り、そのヤングのクロスがオウンゴールを呼んだ。この先制点に運が味方したことは事実。だが、ダイレクトで浮き球を狙った香川の機転が、手前にいたグレアム・ドランズに完全なクリアをさせなかったこともまた事実だ。ペナルティエリアの淵から、スルスルと2、3歩戻ってマークを外すと、ヤングからのパスに体を横に向けたまま、右足アウトサイドでこなしたチャンスメイクは、「戻ってきた」と感じさせる瞬間でもあった。