フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
「これからは2年前とは別人」――。
21歳の大人になった石川遼が進む道。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byYUTAKA/AFLO
posted2012/11/21 10:30
11月11日、三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりの復活優勝を遂げ、最年少で10勝目を上げた石川。インタビューでは「今日もダメかなと思う自分がいて、優勝の味というか感触を忘れていたので不思議です」と目を潤ませながら語った。
確実性を得た代わりに失った、驚異的な爆発力。
メンタルだけでなく、プレーの面でもこの数年で別人に変わった。
以前はストレートボールだけを打っていたのが、フェードとドロー、高低の打ち分けを身につけ、駆使するようになった。ドライバーを振り回す恐れ知らずの突貫スタイルから、ミスした場合のリスクにも目を配ってショットを選ぶスタイルへの転換である。
「ショットの引き出しが増えたことで、セーフティーかつケガをしないゴルフができるようになってきている。その分、アイアンショットがピンにまっすぐ向かって、入り出したら止まらないというゴルフはできてない」
確実性を得た代わりに、ハマった時には「58」の驚異的スコアが出てしまうような爆発力はなくなったということだ。
手つかずの感性に頼っていたパッティングも、パターを変え、ストローク軌道を変えて安定性を求めるようになった。
特に今年4月のマスターズ以降に心がけるようになったのが、米国の起伏あるグリーンに対応するためのジャストタッチ。強めに打ってラインを消せばまっすぐ決まる1mのパットであっても、あえてカップまでちょうど届く強さでラインに乗せて沈める。最近特にショートパットを外すことが多いのは、そんな取り組みも一因となっている。
取材の合間のちょっとしたやり取りでも感じた余裕の無さ。
いろいろなことにトライしつつも、2年前までは不思議と結果がついてきたから安心できた。だが、長く優勝から見放されたことで「練習したら本当に上手くなるんだろうか」と思い詰め、神経をすり減らし、ピリピリとしたムードを漂わせるようになっていった。
取材の合間のちょっとしたやり取りでもそんな不安感が感じられることがあった。
ロンドン五輪の期間中のこと。「きのうのなでしこジャパンの決勝はテレビで見た?」と聞いても、石川は「見た」と言いかけた後に「……かなあ」と付けてはぐらかすのだ。
前夜にテレビで見たかどうかなど忘れるはずがない。以前なら雑談めいた話にもリップサービス込みで応じていたのに、その答え方には明らかに拒絶の意志がこもっていた。ゴルフに関係のない話はしたくない。そんな反応こそが石川の余裕の無さの表れでもあったのだろう。