ゴルフトーナメント通信BACK NUMBER
石川、池田ら若手を驚かせた円熟の技。
ツアー選手権を制した宮本勝昌の矜持。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph bySports Graphic Number
posted2010/06/09 10:30
首位を独走し続けた宮本勝昌を待ち受けていた“地獄”。
中断の影響を受けて第3ラウンドは日没サスペンデッドとなった。
最終日の選手達は朝の6時過ぎからプレーを再開し、そのまま最終ラウンドに臨むという肉体的なタフネスも求められるようになった。
いくつもの困難がふりかかる中で、初日から首位を突っ走ったのは宮本勝昌だった。ツアー7勝のうち3勝が日本タイトルというメジャー男。インタビューではいつもユーモアを欠かさず、笑顔がよく似合う明るいキャラクターの持ち主でもある。
予選ラウンドを終えて4打差の首位に立つと、「ここからが辛抱ですね」と臨んだ決勝ラウンドでも、第3ラウンドを終えたところで2位と7打差の大量リードを奪った。
辛抱とは無縁に思える大きなアドバンテージ。最終ラウンドは悠々と“ウイニングラン”を楽しめるかと思いきや、メジャーの舞台はそれを許してはくれなかった。
出だしの1番でいきなりダブルボギーを叩いて雲行きが怪しくなった。続く2番パー5でのチップインイーグルで落ち着いたかに見えたが、ここからが地獄の始まりだった。
「ストローク差を見ちゃったら、自分のスイングができなくなった」
宮本は後半に入って13番のリーダーボードで2位との差を確認した。
まだ6打差――。
5ホールを逃げ切るには十分すぎるはずだが、スコアを意識した途端に体が動かなくなった。
「ストローク差を見ちゃったら、自分のスイングができなくなった。プレッシャーで手が動かないなんて初めてだった。何百回深呼吸したか分からない」
14番で消極的な3パットのボギーを叩くと、15番パー5ではティーショットを左隣の17番に曲げ、17番のフェアウエー、ティーグラウンド、さらに16番のラフまで渡り歩いてダブルボギーを叩いた。トーナメントリーダーとは思えないドタバタぶりで貯金はみるみる減っていき、久々の優勝を目前にして宮本の精神力は決壊寸前だった。
「石川遼が優勝してから、ここ2、3年はツアーのレベルが急激に上がってきた。そのレベルについていかないと優勝争いできなくなっている。ツアーのレベルが上がってからは、明らかに置いていかれている感じがあった」
前回の優勝は'08年4月の開幕戦。「あれはラッキーもあったから」というその通算7勝目以降は2年以上も勝ち星に見放されていたことになる。
なかなか勝てずにいた'08年と'09年の間、宮本はツアーの選手会長を務めていた。
オフの日も会長の職務を果たすために多くの時間を奪われる。周囲が加速度的にレベルアップしていくのを肌で感じながらも、一選手としてのスキルアップに全てを注ぐことができない。それでも自らを犠牲にしながら、石川を表看板に据えた男子ツアーの盛り上がりを下支えしてきたのである。