詳説日本野球研究BACK NUMBER
西武に流れるエースの系譜を継げ!
“持っている男”菊池雄星の復活。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/09/06 10:31
8月29日の日本ハムとの首位攻防戦で、8回3安打1失点の好投を見せて3勝目を挙げた菊池雄星。球速にこだわらず、4回以降は最速147キロの直球と多彩な変化球を丁寧に投げ分け、無安打に抑えた。
ファンの顔色を窺うセ球団と対照的なパ球団の戦力編成。
こういうチーム作りを見慣れている者にとっては、「若返りか」「日本人メジャーリーガーの獲得か」というハムレットのような二律背反のテーマに直面し、頭を抱えている阪神が滑稽に見える。だが実際、期待の高校卒ルーキー、歳内宏明が予告先発した9月2日、日曜日にもかかわらず甲子園球場には前日の4万6691人にくらべ約8000人少ない3万8693人しか集まらないのを見ると、若返りを望まないファンが大勢いるのも事実なのだろう。
これは阪神だけでなく、ヤクルト、広島以外のセ・リーグ各球団が背負う宿命のようなものである。ファンが即効性のあるチーム作りを求める以上、パ・リーグのような「2、3年先を見越した」チーム作りなどできるわけがない。それにくらべ、パ・リーグ各球団にはファンからの強い要望がさほどないので、チーム作りに迷いがない。人気なんて関係ない、目先の勝利なんて関係ない。重要なのは「うまいかへたか」の価値観と、数年先を見据えた安定した強さだけだ。
そういう考え方の中から出てきたのが中村勝、武田翔太、釜田佳直という将来のエース候補たちで、西武なら菊池雄星である。
わずか3勝でチーム順位を押し上げた菊池の運気の強さ。
菊池で注目したいのは運気の強さだ。今季1勝目がチームを3位に押し上げ、2勝目が2位に押し上げた。ファンはそのときには気づかないが、翌日の新聞を見れば「これで3位になった、2位になった」とわかる。たった3勝しか挙げていないのに、そのうちの2勝で、チームの順位を上げているのだ。こういう選手をファンは支持するし、マスコミは「持っている」という形容を使うべきだろう。
勝ち星こそ付かなかったが、菊池の成長を感じ取れたのが8回を6安打3失点に抑えた7月1日の日本ハム戦である。ストレートの最速は150キロ。もちろん速いが、それだけではない。両コーナー低めにビシビシ決まり、投げている姿が遠目で見ても非常に楽しそうなのだ。
修正能力にも注目した。実は、1回表、せかせか投げる菊池を見て、今日はよくないと思った。ところが3番田中賢介のとき何かアクシデントがあったのか、「菊池選手、スパイクを履きかえるためベンチに下がっています」というアナウンスとともにマウンドからいなくなってしまった。そして、ほどなくして戻ってきたとき、菊池は落ち着いていた。