プレミアリーグの時間BACK NUMBER
“ポゼッション”志向は危険な賭けか?
新監督就任でリバプールが変わる!
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/08/31 10:31
第2節マンチェスターCをホームに迎えた試合で、2-1とリードしていた終盤、DFシュクルテルのパスミスから同点に追いつかれた。ロジャーズ監督は「ボールをつなごうとする選手の方がいいんだ」と失態を擁護した。
「リバプールで、ドカンと蹴り出すようなサッカーをするわけにはいかない」
去る6月、監督就任会見でのブレンダン・ロジャーズの発言は、強豪の指揮官としての決意と同時に、チーム改革の適任者としての内に秘めた自信をも表している。
ロジャーズは、昨季のプレミアリーグでスウォンジーを11位に導いた。昇格1年目の弱小クラブにすれば快挙だが、その成績が、あのアーセナルも顔負けのパスサッカーによってもたらされた事実が、リバプールによる引き抜きを呼んだ。
指導者としてのキーワードは「ポゼッション」だ。スウォンジーは、後方から徹底的にショートパスを繋ぐチームだった。選手たちは、強豪との対戦で劣勢に回った局面でも、ロングボールに逃げるようなことがあれば、試合後に監督の説教を受けた。ロジャーズのチームには、ボール支配を運に任せるような手段は許されない。
このマイボールへのこだわりは、往年のリバプールに共通する。黄金期として知られる1980年代のチームにしても、極端な攻撃集団ではなかったが、紛れもないポゼッション集団だった。バックパスも厭わずにボールをキープし、試合の主導権を握りながら、ここ一番で、プレーメイカーのケニー・ダルグリッシュがスルーパスを放ち、ゴールハンターのイアン・ラッシュがネットを揺らした。
古巣と新任地では、パスサッカーの“歴史”が違う。
しかし、ロジャーズのリバプール入りは、巷で「危険な賭け」と見られている。その根拠を端的に言えば、スウォンジーとリバプールは違うということだ。
古巣には、ロジャーズが監督となった2010年の時点で、既にパスサッカーの下地があった。スペイン人監督のロベルト・マルティネス(現ウィガン監督)が、足下で繋ぐスタイルをスウォンジーに植え付け始めたのは、今から9年前のことだ。一方、新任地のリバプールでは、ジェラール・ウリエが監督となった14年前頃から、カウンターで効率良く攻めるスタイルが「有り」とされ続けてきたのだ。
加えて、両クラブでは結果へのプレッシャーが桁違いだ。昨季のスウォンジーの目標は降格回避。今季のリバプールでは、たとえ過去3シーズンの最高順位が6位でも、CL出場を意味するトップ4を目標に掲げないわけにはいかない。