1点を先制された4回表、馬淵の策がついにはまる――。

　馬淵は、選手がベンチへ戻ってくるたびに時間をかけ、こう言い含めた。

「シンカーが気になって、ストレートまで打てなくなってるやないか。追い込まれるまでは、シンカーは打てんでいいんやから、真っ直ぐのタイミングで待て。少々ボールでもいいから、真っ直ぐだったら思い切り振ってこい」

　倉敷商に1点を先制されて迎えた4回表。馬淵の策が、ようやくはまった。

　1打席目にシンカーで空振り三振していた5番・宋コウ均は、2ボールからの3球目、真ん中の直球をバックスクリーンに放り込み、1－1の同点に追いついた。

「1打席目は、低めに手を出すなって言われていたのに、つい手が出てしまった。だから2打席目は、カウントも有利だったので、ストレート1本に絞って待ってました」

追い込まれる前の直球を狙い打ちした明徳打線。

　馬淵がほくそ笑む。

「ボールが先行したら、ああして、苦し紛れに真っ直ぐを投げてくるんよ。それにしてもあの1本は、メチャメチャ大きかったね」

　このあと6回と8回に、8番・ピッチャーの福丈幸が2打席連続でタイムリーヒットを打つのだが、宋同様、捕らえたのはいずれも追い込まれる前の直球だった。

　8回で明徳は西をノックアウト。最終的に4－1でこの試合を制した。

　馬淵はこの日の試合前、携帯サイトで、自分の星座である射手座のラッキーカラーはピンクであることを知った。

「ピンチになるたびに、スタンドを見渡して、ピンク色を探した。でも、ピンクのシャツを着てる人って、あんまりいないんよね」

　ところが「ピンク」は思わぬところにあった。

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