野球善哉BACK NUMBER
“魔球ナックルカーブ”破れたり!
最低打率校・秋田商の待球作戦。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/08/15 18:35
2回のソロ本塁打、3回の適時打と打棒爆発した秋田商の2番・大関。
両校で対照的だった、試合前の心構え。
ひとつ目――。
それは、秋田商打撃陣の「忸怩たる想い」である。
1番を打つ柳田が証言する。
「地方大会は打撃陣が全然打てなくて、投手で勝ってきたと僕たちは思っていました。地方予選は悔しかったので、甲子園に来たら、思い切り振っていこうと決めていました」
待球作戦を辛抱強く実行し、その上で思い切り振っていけたのには、そんな打撃陣の強い想いがあったのだ。
ふたつ目の理由は――福井工大福井側の「心の隙」である。
試合前、エースの菅原はこんな話をしていた。
「今日はナックルカーブを投げる必要はないんじゃないかなと思っています。県大会のビデオを見ましたが、普通のストレートでも打てていなかったので、そこまで気にする打線ではないと思います」
油断があったとは言いすぎかもしれないが、出場校中、最低打率の秋田商打線を前にして、心に隙があったことは否めないだろう。捕手・真鍋も「今日の試合も勝てると思って試合に臨んでいた」と話していたほどである。
最低打率の高校に、魔球の使い手が敗れる時……。
改めて、高校野球とは分からないものだと思い知らされた。
開幕戦で、観客を驚愕に陥れた“魔球”ナックルカーブの使い手・菅原が地方大会の成績とはいえ、出場校中最低打率の秋田商打線に崩されたのである。
逆に、秋田商打線には大いに自信になったことだろう。次なる相手はシンカーの使い手・西を擁する倉敷商だ。
1番の柳田に西の特徴を伝えると、右投手であることを確認した上でこう答えた。
「シンカーがいい投手なら、左バッターはきついと思うので、右打者がやるしかないですね。ビデオを見て、しっかり研究したい」
そう語る彼の眼からは最低打率の打線を引っ張る1番打者とは思えない、揺るぎない自信が感じ取れた。