野球善哉BACK NUMBER
“魔球ナックルカーブ”破れたり!
最低打率校・秋田商の待球作戦。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/08/15 18:35
2回のソロ本塁打、3回の適時打と打棒爆発した秋田商の2番・大関。
徹底的な待球作戦の秋田商に狂わされていく菅原。
待球作戦――。
第1打席においては、追い込まれるまでは手を出さずにタイミングを計る。たとえ追い込まれたとしても、低めは捨てて、見逃し三振を覚悟で高めの球を狙い打つ。
秋田商は、その作戦を徹底したのである。1回表に福井工大福井に2点の先制を許したが、それでも、彼らの戦略はブレなかった。
1回裏、1番の柳田一樹が口火を切る。1ボール2ストライクと待球した後の4球目、高めのストレートを強振、センター前へ運んだのだ。チームに勇気を与えるクリーンヒットだった。
2番・大関匠太が死球で1、2塁の好機。3番・杉谷汰一、4番・近藤卓也は、ともに三塁ゴロに倒れるのだが、どちらも2ストライクを取られてからの強振で作戦がぶれたわけではなかった。杉谷の三塁ゴロで2、3塁とし、近藤の三塁ゴロの間に1点を返した。
そして、この作戦が、立ち上がりの良くなかった菅原をさらに乱調へと引き込む。
実は、菅原はこの時、すでに秋田商の変化に気付き始めていた。
「初球からは振って来ないし、変化球は打つ気がないんだな、と。試合前から、ナックルカーブは狙ってくるだろうというのがあったので、ほとんど投げなかった。ストレートで行こうと思ったのですが、力んでしまって制球が定まらなかった」
5番・和田が死球、6番大友航生、7番・坂谷歩も連続四球で歩き、押し出しで同点となった。8番・三浦健太郎は抜けた変化球が高めに浮いたところを狙い撃ちし、センター前への2点適時打。計4点で試合の形勢は逆転した。
2回裏には、2番・大関が左翼スタンドに飛び込む本塁打。待球作戦は継続中だったが、6球目の甘くなった変化球をとらえての一発だった。
3回裏、菅原には、もう投げる球がなくなっていた。
菅原が降板した時点で、福井工大福井の敗北がほぼ決まった。
先頭の大友に四球を与えると、そこからは1球もストライクゾーンに投げられずに、連続四球。ここで菅原はマウンドを降りた。
地方大会をほぼ一人で投げ抜いてきた菅原の降板は、福井工大福井の敗北を意味したようなものだった。結果、8-3で秋田商の勝利。
「今日も勝つつもりでいたので、彼がベンチに下がっていくのを見た時は淋しい気持ちがしました」とは捕手・真鍋である。
もちろん、秋田商打線の狙いがピタリとハマった末での試合展開なのだが、この結果を招いたのには二つの理由がある。