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<私が山に登る理由> 芸能界随一の登山家・市毛良枝 「自立できたときの喜びはかけがえのないもの」
text by
秦野邦彦Kunihiko Shinno
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2012/07/19 06:00
思い出深いのは、南アルプスでの単独テント泊縦走。
登った山はどれも思い出深いものばかりですけど、中でも特に忘れられないのは8年前に南アルプスで単独のテント泊縦走を成し遂げたことです。これはある種すごく贅沢な悩みなんですけど、私が仲良くなる方は著名な登山家やカメラマンさんといったプロフェッショナルの方が多いので、“さあ、山へ行こう!”となると、いつまでたっても私が一番初心者なんですね。
それがだんだんコンプレックスになって、いつか自立した登山をしたいというのが長年の夢だったんです。南アルプスって3000m級の山を何度も登り下りしないといけないから、かなり大変なんです。それをひとりで登っていると、いつも誰かに「帰れ。帰れ!」とささやかれてる感じで、ちょっとでもネガティブなことがあると“撤退しないと私、死んじゃうのかな?”と思ってしまうんですね。
それでも絶対行こうと決めて。下山したときは生まれて初めてぐらいのひどい筋肉痛になったんですけど、それでも自立できた喜びはすごく大きくて、かけがえのないものだと思うんです。
◇ ◇ ◇
◆市毛良枝さんへのQ&A
1950年9月6日、静岡県生まれ。'71年にドラマ「冬の華」でデビューし、女優として長年活躍。特定非営利活動法人日本トレッキング協会理事。
Q1 登山歴は?
A1 22年
塩見岳、安達太良山、八ヶ岳、槍ヶ岳、九重山、天城山、キリマンジャロ、ヒマラヤ・ヤラピーク、単独で南アルプス聖岳~赤石岳~荒川三山テント泊縦走など。
Q2 登山の頻度は?
A2 その年により、まちまち
ここ数年は母親の介護もあって頻繁には行けてませんが、多いときだと1年のうち3カ月くらい山にいたこともあります。
Q3 初めて登った山は?
A3 北アルプスの燕岳と常念岳
'90年9月の初登山は、その後の人生を変えてしまうほど素晴らしい体験でした。
Q4 あなたのこだわりは?
A4 シンプルが一番
午前中に終わる登山でもヘッドランプ、それからステッキ、お湯を沸かせるバーナーは必ず持って行きます。私、白湯の美味しさは山で初めて感じたんですよ。何も無いところでは、人間ってこんなささやかなもので幸せになれるんだなって。
Q5 あなたの「一名山」は?
A5 どの山もベスト
どの山も登るたびに違う表情を見せてくれるんです。単に「百名山だから行こうよ」というのは、つまらないと思います。