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レアルとアヤックスの「顧客」は誰か?
利益モデルが企業を特徴づける。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byBongarts/Getty Images
posted2012/05/15 10:30
1992年にアヤックスの下部組織に入団したスナイデルは、2012年にトップチームデビュー。5シーズン在籍しゴールを量産した。2007年にレアルへ移籍。2009年にインテルへ移籍後はセリエA5連覇、イタリア史上初の3冠達成に貢献している。
アヤックスが見つけた顧客とは。
一方、アヤックスの年次報告書「Ajax Jaarverslag 2010-2011」によると売上高9710万ユーロ。レアルの約5分の1の規模である。ここ10年をみても収入は1.75倍の伸長にとどまる(2001年と2010年を比較するとわずか1.25倍)。
この規模のアヤックスは、王者のビジネスモデルをまねせず、独自のビジネスモデルを立ち上げている。勝者の真似をしていては、その勝者以上には成長しがたいのである。
そのためには、自分たちのもつ環境や歴史、資産(選手、スタッフ、ファン等)などの特性を考えた上で、「独自」のビジネスモデルを設定することが必要となる。
アヤックスの独自のビジネスモデルは、顧客の捉え方を変えた点が見事である。ファンやスポンサーだけが顧客と考えるのではなく、従来の顧客に加え、もう1つの顧客に注目したのだ。
それは、誰だろうか。
サッカーファンの方は、すでにお気づきだろう。答えは「ビッグクラブ」である。
スナイデルは2500万ユーロでレアルへ移籍。
ビッグクラブに何を提供するのか。前述したように、ビッグクラブは彼らのビジネスモデルを作り上げるために「スター選手」がほしい。アヤックスはその需要を狙っているのである。選手を育て上げれば、ビッグクラブという新たな「顧客」を自分たちの利益モデルの中に据えることができる。したがって、若くて無名の選手を育て上げることに注力し、育成した選手を顧客であるビッグクラブにアピールするために、チャンピオンズリーグで善戦すること(必ずしもレアルのように優勝でなくともよいのであろう)を目的として試合を戦う。
たとえば、インテルの10番として活躍しているスナイデルはアヤックスの下部組織で育成され、2007年にレアルへ移籍しており、その移籍金は2500万ユーロとも言われている。また、入れ違いで750万ユーロを支払って獲得したルイス・スアレスは、2011年に2280万ポンドでリバプールへ移籍しており、4年間で日本円にして約21億円余りの利益を生み出したことになる。(ちなみに、前述のデロイトのレポートはこの「移籍金」を含めていない)