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オシムと過ごした50時間、
その豊穣なる矛盾を愉しむ。
~『オシム 勝つ日本』取材秘話~
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/01 08:00
『オシム 勝つ日本』 田村修一著 文藝春秋 1333円+税
オシムの「矛盾」に日本サッカーを考えるヒントがある。
オシムとはかくも愛すべき、そして矛盾に満ちた人である。僭越を承知で言えば、この特徴は彼のサッカー哲学にも相通ずるのではないか。
ゼレスニチャールからユーゴ代表、シュトルム、ジェフ、日本代表に至るまで、オシムは常に「弱者」を指揮してきた。
しかし彼は、ありきたりな「弱者の戦い方」――ひたすらに守備を固めてカウンターを狙うような戦術には与しない。むしろ失うもののない立場であればこそ、リスクを冒してでも勝機を見出そうとする。オシムとは弱者を率いながらもスペクタクルなサッカーを実践し、さらには結果も残すという、鼎立させ難い目標を追求した稀有な監督だった。
故にオシムの言説は、ときとして矛盾に満ちたものとなる。おそらく本書を手にされた方々も、最初は多分に戸惑いを覚えるに違いない。
だが諸兄姉には、あえて「矛盾」を愉しんでほしい。繰り返し投じられる深遠な問いは、日本サッカーの未来を考える最良の触媒である。と同時にそれは、ボヘミアングラスのようにまばゆく光を乱反射する、イビチャ・オシムという人間の紛れもない一部なのだから。
文藝春秋BOOKS
ワールドカップ南アフリカ大会に向けて、オシムが語る日本サッカーへの想い。合計50時間以上に及ぶ膨大なインタビューの中にちりばめられた、新オシム語録。
<本体1,333円+税/田村修一>
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