フットボール“新語録”BACK NUMBER
安易な海外移籍決断に異を唱える、
広島・ミキッチのJリーグ主義。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2012/04/10 10:30
当初はFWとしてプレーしていたが、1999年にディナモ・ザグレブの監督に就任したオズワルド・アルディレスにサイドプレーヤーへの転向を促され、以降、サイドを主戦場として活躍。サンフレッチェ広島に加入した初年度も右サイドのレギュラーとしてシーズン4位という好成績に貢献した。
「なぜ日本の若い選手は外国のリーグに行きたがるのか? まったくわからないんだ」
ミハエル・ミキッチ(サンフレッチェ広島)
今、Jリーグにとって最も悩ましい問題のひとつは、若手のヨーロッパ流出だろう。2010年W杯以降、香川真司、内田篤人、宇佐美貴史、大津祐樹といったリーグの見所となりうるタレントたちが次々と日本を離れ、この夏もセレッソ大阪の清武弘嗣や柏レイソルの酒井宏樹の海外移籍が噂されている。
ドイツに6年間住んだ経験がある筆者としては、リスクを冒して移籍する若手選手たちの気持ちがわかる気がする。Jリーグである程度の結果を出せば未知の世界で力を試したいと思うのが自然だし、言葉も通じない異文化に飛び込むことで価値観が変わって劇的な成長を遂げることがある。個人的には「海外移籍・推奨派」だ。
ただし、サッカーのプレーに絶対的な正解がないように、移籍に関してもいろんな価値観に耳を傾けておくことは決してマイナスにはならないだろう。今、こういう日本の若手のスタンスに対して、真っ向から異を唱える人物がいる。サンフレッチェ広島のミハエル・ミキッチだ。
「なぜJリーグより下のクラブに行く必要があるのか」
ミキッチは元クロアチア代表のMFで、ディナモ・ザグレブやドイツのカイザースラウテルンで活躍し、2009年1月に広島に加入した。Jリーグの外国人枠をブラジルと韓国の出身者が大半を占める中、ミキッチは今季で4シーズン目に突入したJ1の最古参ヨーロッパ人選手。第4節のFC東京戦では右サイドをドリブルで突破して鋭いクロスから佐藤寿人の決勝ゴールをアシストしたように、実力的にもJリーグを代表する“助っ人”だ。
ミキッチは日本の若手たちに、大きな憤りを覚えていた。
「Jリーグのレベルは高いのに、なぜ日本の若い選手たちは外国のリーグに行きたがるのか? その理由がまったくわからないんだ。こんなに素晴らしいスタジアムとサポーターの雰囲気があって、さらにパーフェクトな運営がなされている。プレーの質も高い。それなのに、なぜJリーグより下のクラブに行く必要があるんだろう」
よほど納得できないのだろう。まるで試合中かのようなハイテンションで、ミックスゾーンで両手を広げながらミキッチは話し続けた。