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驚くべき冤罪を浮き彫りにした、
ノンフィクションの真髄。
~我那覇“ドーピング事件”の真相~
text by
一志治夫Haruo Isshi
photograph bySports Graphic Number
posted2012/03/19 06:00
『争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と 彼を支えた人々の美(ちゅ)らゴール』 木村元彦著 集英社インターナショナル 1500円+税
Jリーグと戦うつもりなど微塵もなかった……。
その一方で、我那覇の出身地である沖縄の人々、藤田俊哉会長を筆頭とする選手会、チームドクターらは、我那覇支援へと回った。CAS裁定費用を集めるため、故郷で始まり全国へとひろがっていった「ちんすこう募金」は、実に900万円以上を集めた(現在、再開されていて、本書の収益の一部もまわされる)。こうした心ある人たちの動きが本書のもうひとつの物語であり、救いでもある。
ひたすら真っ正面から真実を追い求めたノンフィクションは、終始、抑えた筆致で、論理的に展開していく。やみくもに人を糾弾したりはしない。静かに、しかしときに執拗に、冤罪を生み出した人たちの不実を炙り出していく手法だ。我那覇とて、Jリーグと戦うつもりなど微塵もなかった。ただただ大好きなサッカーがやりたかっただけなのだ。
『争うは本意ならねど』というタイトルは、我那覇とチームドクターの共通した思いだ。しかし、つまらない大人たちが、彼らを半ば強引につまらない舞台へと引きずり出したのである。3400万円余もの裁定費用を一選手に押しつけて。