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<復活への決意を語る> 上田桃子 「強さと優しさを武器に」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAkiko Kato
posted2012/03/08 06:00
米ツアーで直面したのは“勝てない”という現実だった。
苦しんだ日々は長かったが、その中で多くのことを学んだ。
新しい武器を携えた上田は、復活を賭けて新シーズンに挑む。
5年前、彼女はシンデレラガールだった。
'07年はツアー初優勝にとどまらず、年間5勝を挙げて歴代最年少の賞金女王。翌年には米ツアーにも足を踏み入れてデビュー戦から優勝争いを演じた。すべては順風満帆に思えた。
だが、想像もできないスピードで夢の階段を駆け上がっているうちに、時計の針は12時を回っていた。魔法の日々の後に待っていたのは想像もしていなかった苦しい時間。右ひざの故障、そこから取り組み始めたスイング改造。繰り返されるキャディーの交代。コーチを替えてみても誰も新しい魔法はかけてくれなかった。
苦しみあえぐなかで、ようやく光が射したのは昨年11月のミズノクラシックだった。5年前に勝って米ツアー切符を獲得した思い出の大会で、その時以来となる米ツアーでの2勝目を手にした。復活ののろしがついに上がったのだ。オフには2度の賞金王に輝いた谷口徹の合宿に参加。費やした時間の充実ぶりを示すように、上田桃子は確信めいた様子で「プロとして大事なことを学べた気がする」と言った。
「カッコよくありたい気持ちがゴルフの邪魔をしてました」
――谷口プロとの練習で気づかされた大事なこととは何でしょうか。
「なんかこう、カッコつけてたのかなあと思いますね、この4年間は。自分の中でこうありたいとか、周りからこういう選手と思われてるんだろうという選手像ばかり意識してたんです」
――それは一体どういう選手像?
「強気で、いつもポジティブな上田桃子というイメージですね。相手の選手が緊張してたり悪い流れにいたら、そこにドカンって食いついていく。そういうスキのないゴルファーでありたいなと自分でも思っていました」
――おそらく日本で賞金女王になった頃は意識せずにそういう選手でいられたはずです。それがこの数年はそのイメージに縛られるようになっていた。
「そうですね。でも、それって自分が作り上げた上田桃子ではなかったんです。自然にやっていたことを周りにそう見られていただけで、そうなろうと思ってやっていたわけではない。だからすごく苦しい……、苦しいというか、本当はもっと別の自分がいるのにという思いがあったりして、この4年間はすごく葛藤がありました」
――じゃあ、今年はどんな上田桃子を見せたい、もしくは見せられそうですか。
「ミズノクラシックの時は『カッコつけない』がテーマだったんですね。ボギーを打ってもいいから、次のホールでしっかりバーディーを取れるように目の前の一打に集中することをずっと考えてました。だから、今年もあんまりカッコつけたくないなと思ってます。元々は、熊本で育った泥臭い女の子が頑張ってる! って感じだったのに、こうやって東京に住んだりすると……(笑)。すべてにおいてカッコよくありたい気持ちがゴルフの邪魔をしてましたね。
アメリカでもすごく周りばかり気にして、体の大きさからして引け目を感じていました。自分のいいところをあまり見ようとしないで、ここは負けてるなとか他人のいいところだけを見て勝手につぶれていたような気がします。一番調子がよかった時は、私が絶対勝つ、勝てるっていう気持ちや自信がすごくあったから、少しぐらい不安があっても結果がついてきたんでしょうね」