MLB東奔西走BACK NUMBER
ライアンに会えばダルビッシュも即決!?
メジャーに見る様々なオーナー模様。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/01/08 08:01
2011年12月10日、アルバート・プーホルス、C・J・ウィルソン両選手の入団記者会見でスピーチをしたアート・モレノ=エンゼルスオーナー、65歳。2003年、MLBの歴史上はじめて、ヒスパニック系アメリカ人として球団オーナーとなった
プーホルスの移籍を成功させた、モレノ氏の魅力と人柄。
実はモレノ氏のこの魅力こそが、セントルイス・カージナルス残留にほぼ固まっていたプーホルスにエンゼルス移籍を翻意させていたのだ。
「簡単な決断ではなかった。11年間カージナルスに在籍し、そこで家族もできた。今でもカージナルス・ファンを愛する気持ちは変わっていない。一方でモレノ氏と電話で話したときに、彼がどれほど自分を欲しているかという熱意を感じた。それまで一度も面識がなかったが、彼と5分間話しただけで、オーナーがどういう人物なのか理解することができたし、自分自身に最大の敬意を表してくれるとともに、家族への思いやりも凄く感じた」
決断に至るまでの経緯を説明してくれたプーホルスによると、最終決断したのはエンゼルスから公式発表された12月8日の朝だったということで、7日夜の時点ではまだ何の結論も出ていなかった。そして7日夜にモレノ氏と電話で話をする機会をもったのだという。入団会見に同席していたプーホルスの代理人も一連の入団交渉を担当した立場から、「どちらかというとカージナルス残留の気持ちが強かったと思う。モレノ氏と電話で話したのが決め手となったようだ」と説明している。
プーホルスはあくまで交渉には加わらず、また代理人も提示された契約内容を彼に渡しただけで何の個人的意見も伝えていなかったという。そして、彼自身で最終決定を下したというのだから、モレノ氏がプーホルスに与えたインパクトの強烈さが想像できるだろう。
疫病神のようなフランク・マッコートの存在。
このモレノ氏と真逆の存在だったのが、同じくロサンゼルスに本拠地を置くドジャースのフランク・マッコート=オーナーだった。夫人との離婚訴訟を皮切りにあまりにずさんな球団経営状態が明るみになり、昨年4月にMLB機構の管理下に置かれた。その後も早期のオーナー交代を目指す機構側の思惑とは裏腹に、マッコート氏は破産申請をするなど、頑として球団売却に応じようとしなかった。そんなオーナーに愛想を尽かしたファンたちは観戦ボイコットを行い、11年ぶりに観客動員が300万人を下回るという非常事態を招いていた。
マッコート氏が球団経営の起死回生と期待していた、FOXテレビとの放映権契約も機構側に認められず、そのFOXの余った資金が結果的に同地域のエンゼルスに回ってしまったという皮肉を招いてしまった。結局、9月に入り球団売却を決心したものの、今もって売却先が決まらない状況で、今シーズンの補強対策にも大きな影響が出てしまっている。どうやらチームを去るまでファンにとって疫病神のような存在になってしまったようだ。
なかなかフロントが檜舞台に出ることがないNPBとは違い(そもそもオーナーの何人かが球団職員の1人であるということ自体おかしいのだが)、ここに挙げた2人のオーナーの“明暗”を見れば一目瞭然なように、メジャーリーグではオーナーがチームの行く末を大きく左右するほどの存在なのだ。