スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
イチローとローズ。
~10年連続200本安打を目指して~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/04/03 08:00
注目の開幕は4月5日、オークランドでのアスレチックス戦で迎える
イチローの野球が今年もはじまる。「イチロー劇場の開幕」とか「イチロー・ショーのスタート」とかいった言葉も頭に浮かばないではないが、大リーグ9年間でこれだけ安定した実績を重ねてきた彼には、劇場とかショーとかいった言葉があまり似合わない。
それでも、予告篇は21世紀版の「ザ・キャッチ」だった。いうまでもないが、20世紀版は1954年ワールドシリーズのウィリー・メイズだ。メイズは、ポロ・グラウンズのセンター最深部で、ヴィック・ワーツの大飛球をうしろ向きのままキャッチした。あの写真を知らない野球好きはいないだろう。
イチローはオープン戦で「ザ・キャッチ」を再現した。騒いだのは日本人だけではない。私が親しくしているアメリカの野球好きも、あの映像をユー・チューブで10回以上見たといっていた。「草野球の夢だね」とわれわれは笑い合った。私も子供のころ、夢見たことがある。ただし、うしろ向きのままの捕球などという大それたことは考えない。大きなフライが上がると、おおよその目星をつけて全力で走り、この辺だろうと思ったところでくるりと振り向いて捕球体勢に入るのだ。それでも、ほとんどは落下地点から大きく外れる。一度だけまぐれ当たりで捕球したときなどは、鬼の首でも取ったような騒ぎだった。
あのピート・ローズをも上回るほどの偉業を目指すイチロー。
そんなイチローなのに、今季もファンタジー・リーグ(実際の成績を反映させ仮想のチームを作り競い合うゲーム)の評価はあまり高くない。どのサイトを見ても、外野手で10位前後、全体では50位前後にランクされている。
私は面白くない。ライアン・ブラウン(ブルワーズ)やマット・ケンプ(ドジャース)より評価が低いのは長打力の面で仕方ないとしても、カール・クロフォード(レイズ)やジャコビー・エルズベリー(レッドソックス)といった足が速いだけの選手より低く評価されているのを見ると、ついむっとしてしまう。大リーグ史という背景を持ち出せば、その差はあまりにも歴然としているではないか。
2010年、イチローは10年連続200本安打をめざす。200安打を10回以上記録した選手は、大リーグ史上ピート・ローズただひとりだ(タイ・カッブは9回)。もっとも、ローズは4年以上200本安打をつづけたことがなかった。年間最多安打も230本止まりだ。
年齢の面でも比較してみたい。
イチローは今季、36歳で開幕を迎える。これまでの彼の通算安打数は大リーグで2030本、日本で1278本だ。合計すると3308本。