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J・バトンが“災い転じて福となす”。
接触と早すぎたタイヤ交換で優勝!? 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2010/03/29 13:10

J・バトンが“災い転じて福となす”。接触と早すぎたタイヤ交換で優勝!?<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

「ピットへ戻ってスリックタイヤに換えなきゃならなかったんだ。インターミディエイト(雨対応用浅溝)タイヤはスタートしてすぐにグリップを感じることが難しくなっていたから、ドライ(路面用)タイヤに換えるならいまだと思ったのさ。でもピットインしたらピットレーンは濡れているし、こりゃ失敗したなと思ったよ。実際コースに戻ったら滑って飛び出してしまって“オー、ノー!”状態だったから」

 レース後、そうコメントしたのはF1第2戦オーストラリアを制したJ・バトンである。

 彼は予選4位からスタートしながら、1コーナーでアロンソと接触してしまいオープニングラップは6位。1周目からセーフティカーが出動する事態となったが、それが4周目に退去してほどなく、バトンはコース上に残った19台の最後尾となってピットに戻って来た。タイヤを換えて発進したものの、ピットレーンもタイヤもびっしょり濡れており、バトンが言うように交換は時期尚早、ギャンブルは裏目に出た……と誰もが思った。コースオフしたシーンをモニターで見たライバルチームのエンジニア達は笑いを噛み殺したかもしれない。

早すぎたタイヤ交換にベッテルの故障……運命が交錯する。

 だが、数分を経ずしてライバル達の目の色が変わる。

 バトンの区間タイムが一気にハネ上がったのだ。こうなると、そこはそれプロの集団。バトンのタイム向上を見るやここを先途とインターミディエイトからスリックに換えるために続々とピットインし始めた。

 とは言え決断の早かった(早すぎた!?)バトンを捕らえることはもはや不可能。一連のピット作業が終わった時、首位ベッテルはそのままだったが、2位にはバトンが浮上。その後にはクビサ(予選9位からジャンプアップ!)、ロズベルグ、マッサ、交換が2周遅かったウエーバー、ハミルトン、アロンソ……と続く。

 さらに、自ら決断したギャンブルに勝ったバトンに、もうひとつ大きなご褒美が与えられることに。

 ベッテルが左前輪(おそらくはブレーキ)のトラブルに見舞われコースアウトしたのだ! 

 バトンは労せずしてトップに立つこととなり、結局その座をチェッカーまで誰にも譲らなかった。

2位以下は数珠つなぎとなってお互いを潰し合った。

 2位のクビサはバトンを追いたいが、すぐ後ろにハミルトンが喰らいついていたので追えず。さらに、タイヤ交換のため難を逃れることにはなったが、ハミルトンのすぐ後ろにはマッサが猛然と襲い掛かっていた。このためバトンは後塵のライバルたちを気にせずマイペースで逃げることができたのだ。

 だが、防戦いっぽうだったのは最終的に2位となったクビサだけではなかった。3位のマッサは直後のアロンソに対して、アロンソはハミルトンに、ハミルトンはウエーバーに、ウエーバーはロズベルグに……と、すぐ背後に強力な追手を引き連れての数珠つなぎ態勢でお互いけん制し合っていたのだ。バトンの逃げ切りはこの数珠つなぎ状態によって導かれたといえるだろう。

 バトンは昨年に次いでオーストラリア2連勝。

 2位クビサ、3位マッサと、予選トップ3(ベッテル→ウエーバー→アロンソ)と決勝トップ3はまったく違った顔ぶれになってしまった。大波乱のレースであった。

【次ページ】 もし1周目でバトンがアロンソに接触していなかったら?

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