メディアウオッチングBACK NUMBER
原作にない人間味を描いた
映画版『マネーボール』。
~MLBを変えたカリスマGMの物語~
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySony Pictures Entertainment
posted2011/11/09 06:00
『マネーボール』 監督:ベネット・ミラー 本篇上映:2時間13分 11月11日(金)より丸の内ピカデリーほか 全国ロードショー
トレード通告のシーンで表現されるメジャーの厳しさ。
そして実際にピーターは選手にトレードを通告することになるが、このシーンで表現される野球界の厳しさに触れるだけでも一見の価値がある。選手はスターではあるが、球団にとっては「商材」でしかないのだ。
移籍にまつわる悲哀は本では表現されていない部分で(原作者は興味がなかったのだろう)、映画版の成功は野球界における対人関係を丁寧に描いたことが大きい。GMと財布を握るオーナー、GMと現場での指揮権を持つ監督との対立関係もわかりやすい。
ブラッド・ピットはタキシードも着ないし、拳銃も持たないが、地味目の役どころを手堅く演じる。映画の終盤、彼はとある球団に面接に出向くのだが、そのシーンのブラピは限りなくスタイリッシュで彼のファンもきっと満足するだろう。
私のお気に入りは補佐役を演じたジョナ・ヒル(彼は才能豊かなコメディアンだ)。オタクっぷりが堂に入っている。
彼はかつてレッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パークで始球式を務めたことがあるが、なんと野茂英雄の投球フォームを真似ていた。でも、太りすぎていて、とても野茂には見えなかった。しかし劇中ではそんな彼が「俊足巧打」の演技ぶりを見せ、映画に厚みを持たせている。