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たったひとつの技術が勝敗を分ける!
イギリスGPでF1チーム同士が暗闘。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/07/14 10:30
フェラーリ375に乗ってご満悦のアロンソ。1951年、フロイラン・ゴンザレスが駆るこのマシンが、常勝アルファロメオを破りフェラーリにF1初の勝利をもたらした。F1は、1950年にシルバーストーン・サーキットで初めて開催された
伝統の一戦を1時間40分後に控えた日曜日の午前11時20分、往年の名車がシルバーストーン・サーキットのコースに姿を現した。その真紅のマシンの名前はフェラーリ375。いまから60年前の1951年、F1発祥の地、イギリスGPでフェラーリにF1初勝利をプレゼントしたメモリアルカーである。
アロンソがステアリングを握ってコースを1周したフェラーリ375は、現在のグランプリエンジンとは異なる美しいエキゾーストノートを奏でながら、サーキットを1周した。
しかし、イギリスGP期間中のシルバーストーンでは、その音色を巡って、全F1チームの代表とテクニカルディレクターによる政治的な争いが繰り広げられていた。
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それを人々は「エキゾーストブローイング問題」と呼んでいた。
レッドブルが導入した新技術「エキゾーストブローイング」とは?
「エキゾーストブローイング」とは、排気の流れを利用してダウンフォースを増加させるシステムで、2010年の開幕当初からレッドブルが投入。ライバル勢をリードする原動力となったアイディアだった。その後、数チームも追随して、その差は縮まっていく中、2010年シーズンが終了した。
ところが年が明けると、レッドブルと他チームとの差は再び拡大。理由は2011年に入って、レッドブルが新しいエキゾーストブローイングの使い方を始めたからである。その使い方とは、アクセルペダルから足を完全に上げた状態(いわゆるオフスロットル)でも、エンジンの燃焼室に送る燃料と空気を決めるスロットル開度を自由に設定して、ブレーキング時にも高速の排気を行い続けて強引にダウンフォースを発生させる方法だった。
F1マシンはドライブ・バイ・ワイヤと呼ばれる電気信号を使用しているため、踏力をそのままスロットル開度と呼応する必要はなく、リニア(1次元的)に反応していれば、コンピュータ制御によって0から100%のスロットル開度を自由に設定できるようになっている。レッドブルのエキゾーストブローイングはオフスロットル時でも、状況によってドライバーがステアリング上のダイヤルを操作することで、スロットル開度が約50%も開いて燃料と空気をシリンダー内に取り込み、爆発を続けて高速の排気を出すことで、ブレーキング時のリアの安定性向上を図るシステムを採っていた。そのため、レッドブルのマシンはコーナー進入時からアクセルを全開にしてコーナーを立ち上がっていくまでの間でも、排気管から奇妙な爆発音を轟かせながらコーナーリングしていた。